18920 「日本人にAIIB副総裁になってほしい」ASEANの本音   古沢襄

■「安米・経中」もがく韓国 アジアの思惑

 
「韓国の対中国貿易額はすでに対米国の2倍。どこまで中国に異を唱えることができるのか」。ある外交筋が嘆息する。3月21日、韓国政府は厳しい現実を見せつけられた。

「韓国政府が(参加に向け)一歩進めた研究をしているのは明らかだ」

中国の王毅外相はソウルでの中韓外相会談後、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に関して記者団にこう語った。会談で尹(ユン)炳(ビョン)世(セ)外相は、AIIBに参加するか否か態度を保留したにもかかわらずだ。

王氏は「参加表明は時間の問題だ」と言わんばかり。韓国政府は驚き、当局者が「まだ検討中だ」と火消しに追われた。何より気にしていたのは米国の顔色だ。米中両大国の板挟みになって苦悩する韓国の現実が、浮かび上がった。

「安米経中」。朴(パク)槿(ク)恵(ネ)政権の外交政策は韓国でこう呼ばれる。安全保障は最大の同盟国である米国と手を携え、経済では最大の貿易相手国の中国を重視する。綱渡りのような、バランスの上に成り立つ。

問題は安保と経済が複雑に絡み合うことだ。アジアで年間7千億ドルを超すインフラ需要が見込まれる中でAIIBの経済的な魅力は大きいが、国際金融秩序に対する挑戦であると受け止めるオバマ米政権は韓国に慎重な対応を求めてきた。

韓国政府は結局、外相会談の5日後にAIIBへの参加を表明した。英独仏など欧州諸国を追うように、米国を振り切ったのだ。中国紙、環球時報はすかさず称賛を送る。

「大勢を読み、変化に順応し、国益に最もかなった決定を下した」

次は米国の顔を立てる順番。朴政権は米国が検討中とされる弾道ミサイル迎撃システム「高高度防衛ミサイル」(THAAD)の韓国配備を、中国の反対を押し切って受け入れるのでは-との見方もある。

     ◇

壇上に並ぶ、東南アジア各国駐在の米国大使らの回答は煮え切らなかった。3月にシンガポールのリー・クアンユー公共政策大学院で開かれた米国とアジアに関する討論会。「透明性が担保されれば米国はAIIBに参加するのか」と迫る学生に、「参加に反対とは言っていない」などと曖昧な説明に終始した。

中国はアジアのインフラ開発を推進するとの大義名分を掲げ、参加の門戸を世界に開いた。南シナ海への強引な進出では悪役だが、地域発展の牽(けん)引(いん)役とのイメージもまといつつある。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は加盟10カ国すべてが、AIIBの創設メンバーに手を挙げた。

AIIBをめぐる米国の中国封じ込め戦略は「失敗」-そうみなす東南アジアの安全保障研究者は多い。

シンガポールにある東南アジア研究所のタン・シュー・ムン上級研究員は、各国がAIIBに引き寄せられる理由をこう説明する。

「資金調達の選択肢が増えるうえ、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)のような、人権問題での注文は少ないだろうから」

AIIBが国際金融に加われば、ADBが資金不足で融資できていない案件にも資金が回る。インドネシアのジョコ政権のように、大型のインフラ投資計画を掲げる各国指導者にとって中国資金は魅力的だ。

ただ融資リスクを見極める審査能力で不安は大きい。デフォルト(債務不履行)となれば融資を受けた国が通貨安や財政危機に見舞われ、地域の経済危機をも引き起こしかねない。

タン氏は「東南アジア各国は過度の対中依存も望んでおらず、AIIBに日本も参加してもらいたいというのが本音だ」と言う。

AIIB副総裁に日本人が就き、日本人が歴代総裁を務めるADBと協力関係を築くとの構図も描き、こう力説した。「両機関が組めば日本はアジアへの影響力をもっと強めることができる」(産経=ソウル 藤本欣也、シンガポール 吉村英輝)

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