19003 韓国「主力戦闘機」の改良巡り米韓が“泥沼金銭トラブル”   古沢襄

■米側の追加負担要求に韓国がキレた

韓国で主力戦闘機KF-16(米国製F-16の韓国版)の性能アップ計画が米側との契約トラブルから頓挫し、旧式機を飛ばし続ける事態となっている。

レーダーを最新鋭に交換する計画だったが、当初契約の10億5千万ドルに加え、米側から突然7億5千万ドルの追加費用を求められたことで韓国が怒って契約を破棄したためだ。

事業費の弁済を求める韓国に対し、米側は契約不履行で提訴するなどトラブルは泥沼化。追加費用は韓国での長年の整備不良が原因との見方もあり、韓国軍の体質が改めて問われている。(岡田敏彦)

■流行の最先端「AESA」

米国の軍事専門誌「ディフェンス・ニュース」(電子版)などによると、2012年、韓国空軍はKF-16約130機のレーダーを最新型の「AESAレーダー」に交換することを計画。作業を請け負ってくれる企業を探し始めた。

AESAとは「アクティブ電子走査アレイ」の略。従来のレーダーと異なり、電子的に電波の方向を変えられるため走査(探索)が圧倒的に早く、空中と地上の両目標を同時に探知、追尾できる最新装備だ。

韓国では1986年から2000年にかけてKF-16を計170機導入したが、レーダーをはじめ電子機器類が既に旧式化している。

これはF-16を導入している多くの国が抱える問題で、韓国空軍も最新式への更新を計画。12年7月に入札を行い、本体のKF-16を製造した米国内メーカー「ロッキード・マーチン(LM)」と、米国内にある英国系企業「BAEシステム」の2社が参加した。

韓国メディアによると、入札ではBAEが10億500万ドルを提示し、落札したという。ところが改造作業も本格化し始めた約2年後の14年11月、契約は突如ご破算となった。

■大幅値上げ?

中央日報(電子版)など韓国メディアは、その理由について「米国政府が『事業リスク管理費』として4億7千万ドルを、またBAEが『事業遅延』などで2億8200万ドルの追加費用を求めたため」と報じた。

両者合わせて7億5千万ドル。入札でBAEが提示した約10億ドルで済むと考えていた韓国政府は事実上の大幅値上げに「約束が違う」と反発。契約解除を宣言したうえ、これまでの事業推進にかかった約4300万ドルを賠償するようBAEに求めた。

しかし、BAEは「われわれに責任はない。契約破棄は不当だ」として米ボルティモアの地裁に提訴。レーダー更新は完全に宙に浮いてしまった。

韓国のメディアは「過度な費用引き上げ要求」(朝鮮日報電子版)などと、一様にBAEを非難したが、なぜこんなことになったのか。それには米国の兵器輸出のルールを知る必用がある。

■FMSとは

米国では兵器を他国に供与する場合、主にFMS(フォーリン・ミリタリー・セールス=対外有償軍事援助)という方式を採る。

米国内のメーカーの製造した兵器を、米国政府が窓口となって他国に販売するという方式だ。メーカーと他国の直接取引ではなく、政府間取引にすることで、兵器販売を管理しているのだ。

簡単に言えば、米国政府がメーカーから武器を購入して外国に販売し、代金は外国→米国政府→メーカーへと流れる。FMSでは兵士の訓練プログラムなどもセットになるから“お徳用”ともいえる。

今回のKF-16改造についても、手続き上は韓国が米国にアップグレード(新バージョンへの更新)を要求し、米国がBAEに仕事を発注。完成した機体を米国が受け取り、韓国に引き渡す-という流れになる。

韓国ではBAEが落札と報じられたが、現実には韓国とBAEが直接取引するのではなく、政府間取引となる。

BAEが入札に参加し10億5千万ドルで落札したというのは、その価格で引き受けるというBAE側の意思表示、もしくは口約束のレベルに過ぎず、実際は米政府が入り、後に正式な見積もり額が出されることになる。

防衛省などのFMSに関する資料では「米国が価格を見積もり、履行時期を決める。支払いは前払いが原則で、支払う側は米国内に専用口座を作って代金を入金しておく。兵器の納入完了後に米国が精算を行って代金が確定する」とある。

例え正式に契約を結んでも、その契約額は「見積額」に過ぎず、その後に米国側が実際にかかったコストなどを上乗せしてこの額が跳ね上がることは珍しくない。

つまり米政府抜きで韓国とBAEが合意した落札額「10億5千万ドル」は、米政府にとっては考慮に値しない数字なのだ。

■分解したら見つかった“もの”

そもそもこの計画、14年6月までは曲がりなりにも前に進んでいた。FMSによるアップグレードは、電子機器類を更新する「フェイズ1」と、AESAレーダーを搭載する「フェイズ2」の2段階からなる。

13年11月には米韓の間でフェイズ1契約が結ばれ、14年6月にはKF-16が2機、韓国から米テキサス州フォートワースのBAE工場に搬入され、改良作業が始まった。

結局、部品が壊れたら壊れたまま、飛べなくなるまで飛ばす-。テキサスのBAEに運ばれたのは、こんな「飛べなくなった機体」の可能性が高い。

共食い整備が常態化している韓国空軍だけに、あちこち部品をもぎ取られた“ジャンク品”の可能性すらある。最新鋭へのアップグレードにはまず、あちこち壊れたポンコツの修理から-では、費用が高騰するのも当然だ。

■BAEも思惑が外れる

さらに今回の契約相手がBAEだった点も大きい。KF-16は米国LM社製なのだから、アップグレードも同社に頼めば最もスムーズにいく。それを入札で排し、“目先の低価格”につられてBAEと契約したことが、結果的にコストアップにつながったとも指摘される。

異なる会社が異なる設計思想で作り上げた機器をリンクさせるのはソフト、ハードともに困難が伴う。

両社間で互いに情報をやりとりする必用があるが、ライバルの軍事企業同士が企業秘密を打ち明け合うというのは無理な相談だろう。アップグレード作業の遅延が懸念されるのも無理はない。安くあげるため入札などという小細工を弄したことによる大失敗である。

F-16は世界28カ国で4500機以上売れたベストセラー戦闘機で、多くの保有国はLMによる純正のアップグレードを希望、BAEは改造商戦で苦戦している。

そのBAEが韓国へのバーゲンセールで実績を作りたかっただろうことは想像に難くないが、訴訟を起こさざるを得なかったBAEも、思惑が外れたといえそうだ。

韓国は結局、米国にFMSの契約破棄を申し入れ、米側は11月5日、正式にフェイズ1契約解除を発表。計画は振り出しに戻った。

韓国国防部は「これで新たな契約をLM社と結ぶ道が開けた」とするが、BAEと訴訟沙汰になった今、唯一の選択肢であるLM社の言い値をのむしかないとの見方もある。

韓国では14年12月、次世代戦闘機KF-Xの開発費552億ウォンが15年度国防予算に盛り込まれた。

KF-XはKF-16の後継機種で、輸出も視野に入れているという。アップグレードどころか修理も自国内で困難だというのに、最新鋭戦闘機を設計・製造しようという計画を、LM社やBAEはどう見ているのだろうか。(産経)

 
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