19113 「イスラム国」事件で本性があぶりだされた人たち   古沢襄

■妄言、事実誤認、不見識…

イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による日本人2人の人質「殺害」事件は、さまざまな人間の本性を浮かび上がらせることにもなった。

湯川遥菜(はるな)さんが殺害されたとみられる画像がインターネット上で公開された直後の1月25日夜。首相官邸前には、当時は安否が不明だった後藤健二さんの救出を求めるデモが行われ、「後藤さんを見殺しにするな!」と訴えていた。

後藤さんの救出を安倍晋三首相が願っていなかったはずがない。同時に、テロ組織の要求に屈してはならないことも自明の理だ。その兼ね合いの中で、道路1本挟んだ反対側の首相官邸では、首相や官邸のスタッフが不眠不休に近い状態で奔走していた。

それを知ってか知らずか、デモの集団は次のようなシュプレヒコールも挙げた。

「平和憲法を守れ! 武力で平和はつくれない。集団的自衛権、はんたーい!」
「戦争反対! 命が大事! 政府の責任! 戦争支援、絶対反対!」

人質の救出と「平和憲法」は直接関係ない。ましてや集団的自衛権は無縁の話だ。一方、デモではイスラム国を非難する声は聞こえてこなかった。

翌26日は、大音量とともに一風変わった集団が現れた。「官邸前DISCO化計画」と称したイベントで、主催者のホームページによると、人質事件の前から計画され、「世界平和を願い踊る」のが趣旨だとか。

参加した社民党の福島瑞穂副党首はツイッターに「官邸前で、歌とダンスで、戦争反対。」と投稿。ビール缶を手にした参加者と楽しそうに写った写真も掲載した。

いかにも楽しげな雰囲気の「歌とダンス」が終わっても、政府のスタッフらは官邸で対応に追われていた。

日本は憲法で表現や集会の自由が保障されている。救出に向けて懸命に努力している人たちの面前で楽しもうが、事実誤認や誇大な言説だろうが、道徳上の問題があったとしても、違法でないとなれば「権利」は保障されてしまう。

だが、国会議員の事実誤認や誇大な言説となると、次元は異なる。

民主党の徳永エリ参院議員は1月21日、フェイスブックで次のようにつづった。

「イスラム世界の国々は親日でした。日本は戦争をしない国、世界平和への希望の国だったからです」

過去形で語っているが、この事件を機に「イスラム世界の国々」は反日になったのだろうか。そもそもイスラム国とイスラム教の国々を同一視しているかのようで、非常に失礼な話だ。

「安倍総理がなんと言おうが、集団的自衛権の行使容認、憲法改正、武器輸出三原則の変更。国際社会は日本は変わってしまったと受け止めているのです」

なぜか憲法改正の話題になっている。要するに今回の事件は首相が悪いと言いたいようだ。

「いくら人道支援とはいえ、資金援助を大々的に記者会見でアピールする、テロ組織を刺激したことは否めないと私は思います」

イスラム国への非難は皆無で、イスラム国の代弁者になっているかのようだ。

ちなみに民主党の岡田克也代表は徳永氏が投稿する直前の21日、記者団に「政府の足を引っ張らない」と全面的に協力する考えを示していた。

国会議員としての見識を疑う例は、ほかにも現れた。共産党の池内沙織衆院議員は1月25日、ツイッターに「こんなに許せないと心の底から思った政権はない」と投稿した。

イスラム国への怒りかと思いきや、さにあらず。矛先は首相で、「『ゴンゴドウダン』などと、壊れたテープレコーダーの様に繰り返し、国の内外で命を軽んじ続ける安倍政権」と続いた。そして「安倍政権の存続こそ、言語道断。本当に悲しく、やりきれない夜。眠れない」と訴えた。

その後眠れたのかどうか知らないが、政府のスタッフこそ池内氏とは別世界で文字通り不眠不休で動いたに違いない。

志位和夫委員長が翌26日の記者会見で「不適切だ」と明言した前後に、池内氏も投稿を削除した。

共産党はインターネットを使った選挙運動が解禁された25年夏の参院選や昨年12月の衆院選でツイッターやフェイスブックを積極的に活用した。衆院選では8議席から21議席に躍進し、ネット選挙の活用がその一因とされている。

だが、今回はいき過ぎた「活用」に志位氏がお灸を据えた形となった。
 

こうした発信は各党のごく一部の議員に違いない。野党各党はイスラム国の蛮行には非難の声明や見解を出している。しかし、幹部の発言をよくみると、不可解なことに気づく。

民主党の枝野幸男幹事長は1日、首相が1月17日にエジプトでイスラム国対策として中東諸国に2億ドル(約236億円)の人道支援を表明したことについて「口実を与えるようなことにつながっていないか検証したい」と記者団に語った。

慎重に言葉を選び、「首相が口実を与えた」と明言しないところが枝野氏らしいが、そもそも主語を首相にして「与えた」としている時点でおかしい。

「イスラム国が支援表明を口実に事件を起こした」と表現するのが日本の国会議員の立場ではないか。

社民党の吉田忠智党首も2日の記者会見で「口実を与えたのではないか」と述べ、共産党の小池晃政策委員長は3日の参院予算委員会で、首相の支援表明が「拘束された日本人に危険性を与える可能性があったのではないか」と首相を追及した。

イスラム国に対峙(たいじ)する中東諸国への人道支援は、1月9日に閣議決定した平成26年度補正予算案にすでに盛り込まれていた。

首相の中東訪問自体を問題視する声もあるが、首相の外遊を事前に批判していた野党は寡聞にして知らない。

「生活の党と山本太郎となかまたち」の小沢一郎代表に至っては、首相の支援表明を「宣戦布告」と表現した。事件が1月20日に明らかになる前から小沢氏は人道支援を警告していたのだろうか。後付けの政府批判でしかない。

こうしてみると、イスラム国による極悪非道な事件に絡めてでも首相を批判したい人たちは、デモの集団も国会議員も、いわゆる護憲派が目立つ。

彼らがとても大切にしている憲法の前文には、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と唱われ、続けて、こう書いてある。

「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」

「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」

首相は人命最優先で対応したが、同時に困っている人たちへの支援も必要と考え、後藤さんが殺害されたとみられる映像が公表された後、中東諸国への人道支援の拡充を表明した。

憲法改正に意欲を示す首相が現行憲法の精神に忠実なのに対し、支援表明を批判する人たちは結局、「自分たちさえよければいい」と言っているに等しい。大好きで仕方ない憲法の精神にもとる自己矛盾に気づいていないのだろうか。(産経)

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