■停滞感とギリシャの「傍若無人」ぶりを許す欧州のジレンマとは?
欧州連合(EU)のギリシャに対する金融支援問題は日本時間の1日午前、国際通貨基金(IMF)への約16億ユーロ(約2200億円)の返済をギリシャが行わなかったため新たな局面に入った。
デフォルト(債務不履行)がこうじて、場合によってはギリシャの「EU」、「ユーロ」離脱も選択肢に入る事態だ。
だが、EUは根気よくギリシャへの説得を続ける。そこには欧州全体への金融不安の回避に加え、自分たちの文明のルーツであるギリシャをないがしろにできないとする欧州特有のジレンマも横たわっている。 (菅沢崇)
返済期限上は、本来日本時間の1日午前7時からデフォルトが発生したことになる。しかし実際にはIMFが「延滞」と見なしたため「猶予期間」が生まれた。
当面は一方的にギリシャが仕掛けた5日のギリシャ国内での国民投票が鍵となり、結果としてEU・IMF案の支援策の受け入れに「反対」となれば、その時点から深刻度がさらに増すことになった。
7~8月の返済は欧州中央銀行をはじめ円建て国債も加わり規模は大きく、ギリシャはもう身動きは取れない。その間、交渉が難航し、EU側が何らかの判断を下すならば、すでに不安なギリシャ国民の反緊縮デモがさらに拡大、過激化する可能性も出てきている。
そもそも2009年にギリシャの過大な債務が発覚して以来、財政体質が改善されないまま5年間が経過したことに今回の金融危機は凝縮される。
当初の危機にいたるまでにギリシャは、EUに所属することで、また1999年に地域通貨である「ユーロ」が導入された後、時期は遅れながらも参入し、国民の生活が裕福になることを夢見て走り出した。
ユーロ圏の一員として、現実に自動車ローンの金利の引き下げをはじめいくつかの目新しい変化は発生した。ただ、同時に国民の浪費も政府の放漫財政の歯止めもないまま進み、徴税も進まなくなった。勤労意欲も向上しないまま、政府の粉飾決済が明るみに出て危機に陥った。
デフォルトという現象はギリシャの今回のケースが初めてはではない。2001年にはアルゼンチンが国債のデフォルトを引き起こしている。
ギリシャも12年の欧州債務危機の際、債務返済が困難になり、民間債務を再編しながら現実的にはデフォルト状態を経験している。
ギリシャの長引く財政健全化を振り返れば、いい加減、ギリシャをユーロ圏から切り離す、もしくはEUからの脱退を促すという選択肢がEU・IMF側、ギリシャ双方から出てきてもおかしくはない。しかし、そこには日本では感じにくい欧州のジレンマがある。
EU側には、ギリシャ危機の不安が財政基盤が不安定な域内のイタリアなどに飛び火するのではないかという不安に加え、そこにあるのはギリシャに対する欧州特有の親近感だ。
紀元前5~4世紀に都市として繁栄した欧州文明の源流として、欧州ではギリシャに対する「ルーツ」としての畏敬の念がある。ギリシャ人側にもEUへの帰属意識は強く、世論調査でEU離脱に反対するのもそのためだ。トルコがEU加盟を目指しながら実現できていないことも、ギリシャにとってはEUの価値を高めている。
ギリシャ側は29日、チプラス首相が債務返済を不可能と表明し、開き直りに近い対応で迫っている。EU・IMFがギリシャのツケを支払いをどう処理するか、事態は最終局面に向けて動き出した。(産経)
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