19434 未知の領域に入るギリシャとユーロ圏   古沢襄

■圧倒的「反対」で、混乱期の到来を告げる
 

ここにきて唯一確かなことは、先行きが不透明だということだ。

5日に行われたギリシャの国民投票がどんな結果だったとしても、混乱期の到来を告げるものとなったことは間違いない。だが結果が「反対」派の圧勝だったことで、いまギリシャとユーロ圏は未知の領域に踏み込みつつある。

ユーロ圏財務相会合で議長を務めるオランダのダイセルブルーム財務相は国民投票の結果について、「ギリシャの未来にとって非常に残念だ」とし、「困難な措置と改革は避けられない」と述べた。

ギリシャは実際にユーロ圏から離脱するだろうか。離脱するだろうとの見方がギリシャ内外で優勢だ。これは先行きに不透明感が漂うなか、確実に予想できることがいくつかあることを意味する。

ギリシャは国際債権団との交渉を早急にまとめることはしないだろう。フランスのサパン財務相が「反対」票多数の場合として予測していたようにだ。

他のユーロ加盟各国がどんな動きに出るのかは不明だが、どの方向に進むにしても、早急には動かないだろう。たとえギリシャの国民投票で示された断固とした結果が、欧州の各国首脳にとって衝撃だったとしても。

国民投票の結果を受けた対応策を練り上げる上で中心的な役割を果たしているドイツのメルケル首相はフランスのオランド大統領と会談するため6日にパリへ飛ぶ予定だ。オランド政権はユーロ加盟諸国の中でギリシャに最も同情的な姿勢を貫いている。

メルケル首相の報道官によると、首相とオランド大統領は電話会談を行い、「ギリシャ市民の投票結果を尊重する」ことで合意した後、両首脳は7日に欧州首脳会議を招集した。

ユーロ加盟各国は勝利を収めたチプラス首相率いる左派政権に対し、早急に甘い措置を打ち出すことには慎重だ。そうした対応はユーロ圏の他の国にも、ギリシャの先例に倣(なら)って反旗を翻そうとする動機を与えるリスクを伴う。

欧州各国の高官らは先週、国民投票で「反対」多数となった場合に大幅な債務救済があるとみるギリシャ国民の期待は間違いだと非公式に指摘した。ただ国民投票で「反対」票が圧倒的多数を占めたことで、チプラス首相の要求をすべてはねつけることは、より難しくなるだろう。

ギリシャに対して強硬姿勢を取り、ユーロ加盟各国が資金拠出する救済基金への返済でギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥った場合には、債権者に裏目に出て、諸外国が抱える損失を拡大させることになりかねない。

ドイツ一国だけでも救済基金を通して600億ユーロ(約8兆円)強を負担している。ドイツの銀行や欧州中央銀行(ECB)など、他の支援元を合わせれば金額はさらに膨れあがる。次に重要な日付は7月20日だ。ECBが抱えるギリシャ国債のうち、34億6000万ユーロが償還期限を迎えるためだ。

他にも確かなことがある。ギリシャの銀行は6日になっても営業は再開されない。たとえ信頼感が急速に戻ったとしても、向こう数週間は再開されない可能性が高い。ギリシャ国外への資本流出を防ぐ資本統制はさらに長く続けられる可能性が高い。

2013年に比較的早く救済策がまとまったキプロスの場合、銀行は12日間営業停止した。

ハーバード大学のケネディスクール公共政策大学院で国際金融を教えるカーメン・ラインハート教授は、ギリシャの状況と最もよく似ている最近の例として2つの国が挙げられると話す。

2001年のアルゼンチンと1989年のパナマだ。独自の紙幣を持たず、米ドルに依存しているパナマでは銀行が閉鎖され、9週間にわたって預金引き出し額に厳しい上限が設けられた。アルゼンチンでは預金引き出し額の上限設定は1年間続いた。

ラインハート教授は「銀行の営業停止は資本統制と同様、一時的な措置として導入されることが多い。だが、現実に信頼感がすぐに回復しない場合、長く続く傾向がある」と指摘する。

ギリシャの銀行は確固たる合意が存在するという安心感がなければ、再開できないだろう。同教授は「『合意に近づいている』という言葉だけでは信頼感は回復できない」と話す。

銀行預金の通貨単位がユーロから元のドラクマへ再び変更されるリデノミネーションが実施されるとの懸念から、銀行が再開されたとたんに預金の取り付け騒ぎが発生する可能性が高い。

2008年に経済・金融危機に見舞われたアイスランドでは当時導入された資本統制がいまだに続いている。

ギリシャ政府は当面、ユーロ不足に陥る公算が大きい。ギリシャの中央銀行はもうユーロを発行することができない。またECBは、ギリシャがユーロ圏に残るという強い政治的シグナルがなければこれ以上支援するつもりはないだろう。(米ウオールストリートジャーナル)

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