19474 中国株急落で深く傷ついた共産党の威信   古沢襄

■ロイター・コラムでPeter Thal Larsen氏が指摘

 
[ロンドン 10日 ロイター BREAKINGVIEWS]今回の中国株急落の影響は、揺れ動く市場そのものを越えて、はるか遠くにまで及びそうだ。1カ月にわたる株安は政府が最近打ち出した市場原理導入の方針に疑問を投げかけ、政府はそのぶざまな対応ぶりから金融システムの統制力が限られることが露わになった。
 

今後は広範囲にわたる改革が苦境に陥るだろう。全体像をある程度把握する必要がある。株式市場の下落は劇的だ。9日の上海/深センCSI300指数は高値から28%下げた。ただ、その直接的な影響は対処可能なはずだ。同指数は3月末の水準に戻っただけで、年初来ではなおプラス圏を保っている。
 

3兆ドルの富が吹き飛んだという主張は、中国の株式市場では時価総額全体の約40%分の株しか自由に取引されていないという事実に目をつぶっている。残りの株は経営権を握っている投資家が保有し、その大部分は政府機関だ。クレディ・スイスによると、中国の家計資産のうち株式の占める比率は9.4%にすぎず、銀行預金や不動産の方がはるかに重要だ。

しかしだからといって当局は強力な市場テコ入れ策を止めたりはしなかった。証券監督管理委員会の肖鋼委員長と中国人民銀行(中央銀行)の習小川総裁はこの2週間に金利の引き下げや新規株式公開(IPO)の認可停止など対応策を次々と打ち出した。

最も注目を集めたのは大量に株式を保有する株主を対象に6カ月間売却を禁じた措置。さらに大手証券は中銀の支援を受けて、中国株式市場を下支えるため総額1200億元(190億ドル)相当の資金を株式投資に充てると発表した。
 

非当事者の大多数は、当局がバブル状態の市場を支える必要があると感じたことに当惑した。株式市場の状態は、わずか数週間で財を成すことが可能であり、出来高は驚異的で、農家や年金受給者が実体の不明瞭な銘柄に資金を投じていたのだから。
 

<決定的な役割>
 

中国当局が懸念するのは、信用取引を行ってる投資家が借り入れ資金の返済に窮し、広範な金融危機を誘発する展開だ。

公式統計によると証拠金残高はピーク時で2兆3000億元で、管理可能な水準に見える。しかし一部の投機筋は住宅ローンや「影の銀行」から借り入れた資金を投資に回している。この数カ月は企業が株式を担保に充てるケースも増えている。 

どう説明しようとも、株式市場での売りを止めようとする当局の取り組みは、習近平国家主席や李克強首相が2013年に打ち出した、経済において市場に決定的な役割をもたせるという約束とは平仄が合わない。

売りを防いで買いを促すという取り組みは脇に置くとしても、当局は約1500社、時価総額が合計で約2兆8000億ドルもの企業の株式売買を停止した。
 

こうした過激な政策が導入されれば、投資家は市場からなおさら逃げ出したいと思うだけだ。香港は1987年10月にこうした教訓を学んでいる。このときは株式市場が4日間にわたって売買停止となり、再開後に1日で株価が43%暴落した。中国では投資家が現金を求めており、売りの対象が債券やコモディティにも広がっている。
 

中国当局が市場のテコ入れに動くのは珍しいことではない。この数年は国も地方政府も住宅価格の下落を食い止めるために様々な措置を繰り出してきた。社債がデフォルトになる恐れがある企業に対しては、密かに支援も行った。
 

しかし株式市場はもっと人の目に映りやすい。株価が実際に急落すれば、政府に忠実な幹部といえどもすべてがうまく行っているふりをするのは難しい。
 

<大惨事>
 

株安がまず直撃するのは、株式市場を外国人投資家に開放する計画だろう。今回の一件で国内の株式市場はまだ十分に成熟しておらず、国際的なベンチマークに組み入れるのは無理だと主張してきた株式指数算出機関はその意を強くするだろう。
 

さらに重要なのは、広範な経済改革が遅れたり、軌道を逸れる恐れがあることだ。中国は年内に金利自由化作業を完了する見通しで、同時に資本統制を緩和して外国人投資家による金融システムへのアクセスを拡大しようとしている。
 

中国の政府当局者が、株式市場のほんの一時的な動揺で世界第2位の経済大国を改革する青写真が崩れ去るのを手をこまねいて見ているとは信じがたい。実際、当局が市場介入は無益であり、改革を加速させるべきだとの結論に達する可能性もある。

しかし共産党にとって株価急落の最も厄介な点は、市場を操作しようとしたという事実ではなく、取り組みが効果を挙げなかったことが白日の下にさらされたことだ。株価が足元で下げ止まろうとも、共産党の経済運営能力の面での威信は国内でも国外でもいたく傷ついた。
 

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(ロイター)

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