19552 またも報告延期通告 被害者家族の思いに政府は応えることができるのか   古沢襄

「われわれがこれまでやってきたことは何の意味もなかったのか!」-。拉致被害者らの再調査開始から1年となるのを前に、北朝鮮が再び、報告の先送りを日本に通告してきた。

これまでと変わりない誠意のない北朝鮮の対応に対し、拉致被害者家族からは期限を設け北朝鮮に対する制裁強化を訴える声が出ている。自民党では6月25日、13項目に上る対北朝鮮制裁強化案がまとめられ、政府に報告された。被害者帰国を北朝鮮に促すための“カード”を切ることはできるのだろうか。

■口では「誠実に調査」も誠意なき行動の北朝鮮

「包括的調査を誠実に行っているが、今しばらく時間がかかる」。北朝鮮は2日夜、北京の大使館ルートを通じ、日本に対し再調査報告の延期を伝達した。

北朝鮮が昨年7月4日に特別調査委員会を設置したことを受け、日本政府は同日、北朝鮮に対する独自の経済制裁の一部を解除した。再調査に関しては当初、「夏の終わりから秋の初め」に初回報告が行われる見込みだった。だが、北朝鮮は9月に「現時点で調査の初期的段階を超える説明はできない」として、報告の先送りを通告した。

その後も報告は一切ないまま、時間だけが過ぎ、再調査から間もなく1年になろうとする7月2日に再び、報告の延期を知らせてきた。

本来、特別管理されている拉致被害者の安否に関して調査する必要もないはず。だが、北朝鮮は平成14年9月の日朝首脳会談で、拉致被害者8人について、根拠もなく「死亡した」と説明しており、その説明を覆す“方便”としてだけ、再調査は意味を持っている。

それだけに、「調査を誠実に行っている」とする北朝鮮に誠意が全くないことは明らかだ。それでも北朝鮮との対話の扉が閉ざされてしまうとの意見もあり、今のところ日本政府が制裁復活やさらなる強化に踏み切る気配はない。

だが、日本は北朝鮮にとって圧力となる“カード”を握っている。その一つが自民党拉致問題対策本部のプロジェクトチーム(PT)が6月25日にまとめた対北朝鮮制裁強化案だ。

■総連への厳格な法執行「大変な意味がある」

東京都内で7月1日に開かれた拉致被害者の支援組織「救う会」の集会には、PTの座長、塚田一郎参院議員が出席。13項目に上る案について説明した。

塚田氏は新潟県選出の参院議員。卒業した中学校は、新潟市立寄居中で、拉致被害者の横田めぐみさん(50)=拉致当時(13)=の一学年上の同窓生にあたる。それだけに拉致問題解決にかける思いは強い。

PTがまとめた案では、昨年に解除された制裁の復活をはじめ、再入国禁止対象の拡大、人道目的の10万円以下の送金を除く対北朝鮮送金の禁止、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)に対する厳格な法執行、国際連携の強化などが含まれている。

塚田氏は集会で、安倍晋三首相が今年4月から、再三述べている「拉致問題を解決をしなければ、北朝鮮がその未来を描いていくのが困難だということを北朝鮮側にしっかりと認識をさせる」という言葉を紹介。

そのうえで、「圧力という形を取ることが、一番明確に日本政府、そしてわれわれオールジャパンの意思を伝えるために必要だ」と述べ、北朝鮮から被害者を取り戻すため、圧力強化が必要との認識を示した。

塚田氏の説明後、集会では救う会の西岡力会長が壇上に上がり、PTの案についてコメントした。

西岡会長が特に評価したのは、案に「朝鮮総連に対し厳格な法執行を行う」という項目が入ったことだ。「朝鮮総連に対して書いたということは今までなかったことで、大変意味がある」と話し、さらに「現行法規では足りない法を補完することもぜひ考えていただきたい」とさらなる強化も要望した。

■「分からない」繰り返す政府への不安

北朝鮮からの報告先送り通告を受け、日本政府は9日、被害者家族に対する説明会を実施した。

説明会は冒頭を除き、非公開で行われた。出席した家族によると、今後の再調査報告の時期や日朝協議の見通しについて、具体的な説明はなかった。

説明会の後、報道陣の取材に応じた被害者家族は不安を口にした。田口八重子さん(59)=拉致当時(22)=の兄で家族会代表の飯塚繁雄さん(77)は「(政府に)緊迫感がないなと感じた。

『しばらくの間』とか『今やっています』とか、『これから対応を考えます』とか不透明な話が多すぎる」と話した。増元るみ子さん(61)=拉致当時(24)=の弟、照明さん(59)も「説明を求めて来たが、明確な答えは得られなかった。今後の具体的な展開に関しても何も分からない状態。われわれがこれまでやってきたことは何の意味もなかったのかなという思いでいる」と話した。

家族会と救う会、超党派の拉致議連は22日に緊急集会を開き、今後の運動方針を発表する。北朝鮮がこれまでと同じような対応を続ける限り、さらなる厳しい声が上がるのは必至で、緊張状態が高まることは避けられそうにない。(産経)

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