19559 中東の異端児カタールの首都ドーハにて   宮崎正広

■一方でアルジャジーラ、他方ではサウジと共同でイエーメン空爆

カタールの首都ドーハを訪れた。

まず空港で驚かされたのはアラブ人に加えて黒人、モロッコ人、インド人ら様々な顔である。この「中東の異端児」の現状はいかようになっているのか、甚だ興味深い。

日本人の描くカタール像とは「ドーハの悲劇」といわれるサッカーの惜敗(93年、アル・アリ競技場で日本はイラクに引き分けた)とガスの最大の輸入相手国というイメージくらいだろう。

なるほど砂漠に巨大なサッカースタジアム、まるで蜃気楼をみるようで近くにはラクダ市場がある。いま産油国富裕層の間にはラクダを持つことがスティタス・シンボルだ。

しかし現場に一歩足を踏み入れると、カタールの印象はまったく異なる。

第一に同国政府が設立したテレビ局「アルジャジーラ」が中東の多くの国の意見と対立的であることだ。アルジャジーラはチュニジアから始まった「アラブの春」を評価し、サウジアラビアなどと鮮明に対立した。ところがサウジと共同してイエーメンなどで軍事行動をとる。

第二に矛盾するかのようにISIS(イスラム国)に密かに資金援助を行なうのもサウジ同様で、シーア派のイランを最大の敵を捉えているからだ。

第三に隣国ドバイと似て、不動産バブルが破裂しかけているが、石油・ガス代金の値下がりが主因で経済に暗い影が漂っている。建設途中で中断したビルが目立ち、近未来の経済見通しはどうみても低成長が予想される。

第四に王様は二代目の35歳。三人の妻に八人の子(先代も存命中で三人の妻に25人の子)と中東独特の家族形成があり、王家専用の空港ターミナルと専用道路がその権威を見せつける。庶民の怨嗟の声が広がる。

第五に地付き住民の人口が少ないため労働者、サービス産業は殆どが外国人の出稼ぎである(80%の人口は外国籍)。医療、教育は無料だが、それでも所得格差は拡大する一方である。民族差別はいずれ大きな政治問題化するだろう。くわえて外国人労働者や都会の人々はベールを被らない女性が増え、若者はジーンズにTシャツで街を闊歩している。文化的摩擦は日々先鋭化している。

こうみてくるとカタールは資源立国として繁栄を誇るかにみえ、内実は複雑である。

このカタールからアラビア海をこえると旧ソ連のカフカス(アゼルバイジャン、ジョージア、アルメニア)まで二時間という近さ、つまり現地の地政学では中東ばかりかカフカスの政治が手に取るように分かる。

カフカスはソ連から独立後、おなじスンニ派であり石油ガスを産出するアゼルバイジャンとは深い絆で結ばれるが、キリスト教のジョージアとアルメニアとは政治的距離がある。

アルジャジーラはチュニジアのアラブの春を称賛したが、政府はベン・アリ前大統領の亡命を受け入れたサウジと同じスタンスであり、エジプトの軍事政権を支持している。

こうした鵺のような政治スタンスを日本語では八方美人というらしいが・・・(北国新聞)

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