■そのキーマンとは…“密使”の噂 金大中氏夫人の李姫鎬氏
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は今夏8月で就任2年半を迎え、5年間の任期後半に入る。
内政外交で成果に乏しい朴政権がいま、しきりに関係改善を呼びかけている相手は北朝鮮だ。
8月15日は「光復(日本統治からの解放)70周年」というわけで南北共同行事を行おう、南北国会議長会談を開こうなどと誘っている。
韓国では“歴史的な南北首脳会談”と評される金大中(キム・デジュン)・金正日(キム・ジョンイル)会談から今年で15年という節目の年で、金大中氏夫人の李姫鎬(イ・ヒホ)氏が8月初旬に訪朝の予定もある。朴大統領に側近には“密使”に適任の人物もいるとされるが-。(久保田るり子)
■李姫鎬女史の来訪を待つ金正恩政権
李姫鎬氏は8月5日から3日間、空路で訪朝予定で、宿泊先や訪問先についてはすでに金大中平和センターと北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会が協議、合意している。ただ金正恩(キム・ジョンウン)氏との面会は未定だ。
李氏は昨年末、金正日氏の3周忌に花を贈り、これに金正恩氏が感謝の手紙を送り、そのなかで『来年のよい時期に訪朝を』と招待したことがきっかけだ。
李姫鎬氏は獄中の金大中氏を支えた夫人だが自身も政治運動家、女性運動家として知られる人物。
2011年末の金正日死去の折には韓国政府の許可を得て弔問のため訪朝している。朴槿恵政権は李氏の訪朝を後押ししており、6月末には黄教安(ファン・ギョアン)首相が李氏を表敬するなど特使級の扱いで、訪朝の際は大統領親書などを託す可能性は高い。
だが、北朝鮮は目下、韓国の南北政策を「『対話』のご託で真っ黒な腹の内を隠そうとあがいても耳を貸すものなどいない」、朴槿恵政権を「保守のばか者らの集合体」などと非難三昧なのだ。
北朝鮮は今年6月、南北首脳会談の15周年の記念日に声明を出し、韓国との当局間対話に応じる意向を示していた。
ただ「軍事的緊張をもたらす行動はやめよ」と米韓合同軍事演習中止など“敵視政策撤回”の条件を付けていた。
これに対し朴槿恵政権は北朝鮮に「前提なしの対話」を促し、テーブルにつくことができれば、民間分野の交流や協力を積極的に進めることが可能-などと主張していた。
ところが6月下旬に、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の事務所がソウルに開設された。これは国連調査委員会(COI)が昨年、北朝鮮の人権侵害の詳細な報告書を発表したことを契機に人権状況の監視や記録の事務所開設が決まり、場所を国連が選定、ソウルに事務所開設となったのだ。
北朝鮮はこれに猛反発、南北の和解ムードはいっぺんに吹っ飛んだ。
韓国側はそれでも北朝鮮に対話開始を促し、7月中旬、南北国会議長会談の開催や今秋のソウル安保対話への北朝鮮招待などを次々に打ち出した。
だが北朝鮮は「南北対話を醜悪な政治的籠絡物に利用しようとする腹黒い企てだ」などと一切を拒否している。
しかし、そんな中で唯一、北朝鮮は例外扱いしているのが、李姫鎬氏の訪朝なのである。
■後半の朴槿恵政権、金正恩政権に秋波?
折り返し点に立った朴槿恵政権は内憂外患だ。中東呼吸器症候群(MERS)拡散はようやく収束したが、経済低迷、青瓦台人事の混乱、「セウォル号」事故後の対応の遅れに加え、このところは情報機関、国家情報院による民間人へのハッキング疑惑が拡大、政権の求心力は弱体化している。
朴槿恵政権はスタート当初から統一問題を最優先課題に掲げて意欲を示してきた。今年の年初は、金正恩氏が新年の辞で南北首脳会談にも前向きの姿勢をみせたため、朴槿恵氏もこれに応える「南北統一の実現」を訴える演説まで行っている。
韓国政府に通じる外交筋によると、南北問題のキーマンは大統領秘書室長、李丙●(=王へんに其)(イ・ビョンギ)氏だという。
李氏は外交官出身だが金泳三時代には情報機関、国家安全企画部次長を務めた情報のプロ。朴槿恵氏の信頼が厚く、朴政権で駐日大使に起用されたのち、現在の情報機関である国家情報院のトップとなり、今年はじめに大統領秘書室長となった。
朴氏の側近中の側近で、情報機関を動かすには適任の人物だけに、厳しい環境下で南北関係を動かす時期に来たら「李丙●(=王へんに其)氏が動くだろう」とみられている。
北朝鮮の金正恩氏は政権4年目で国際孤立を抜け出せない。韓国の朴槿恵政権は3年目でこちらも政権求心力が弱まっている-そんな状況下で南北関係が動き出すのか。8月15日の「光復70年」南北共同行事については“民族の正統性を示す行事”との位置づけで、南北の協議が進む可能性がある。当面は李姫鎬氏の訪朝に注目だ。(産経)
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