[東京 7日 ロイター]日銀の黒田東彦総裁は7日の会見で、2%の物価安定目標の達成にあらためて自信を表明した。
しかし、取り巻く環境は内憂外患の様相が強い。新興国経済のもたつきを背景に原油価格も再び下落し、2016年度前半とみている物価2%到達は後ずれのリスクが高まってきた。
<黒田総裁「輸出・生産の鈍さは一時的」>
足元の景気は、4─6月期の実質国内生産(GDP)が前期比年率で2%程度のマイナス成長に転落することが予想されるなど、失望感が広がっている。
米中経済の減速による輸出・生産の落ち込みや、天候要因もあって、個人消費が弱めに推移していることが要因だ。
黒田総裁は会見で、先行き先進国がけん引する形で海外経済が回復に向かうことが見込まれるとし、「輸出・生産の鈍い動きは一時的」と述べ、夏場以降の景気は持ち直すとの見通しを示した。
もっとも、これまでのところ今後の景気が明確に上向くかどうかは、期待の域を出ない状況だ。
海外経済は米国の4─6月期の実質GDPが同2.3%増と1─3月期の同0.6%増から持ち直したものの、並んで日本経済に影響が大きい中国経済の先行きは依然として不透明。4─6月期の実質GDPは前年比7.0%増を確保したが、中国経済減速がアジア経済全体の重しとなっている。
日銀では中国経済の先行きについて、当局による財政・金融両面での対策を受けて安定成長を維持するとみているが、公共投資中心の成長になる可能性があるほか、鋼材は中国政府が輸出振興策をとっていることなどもあって市況が下落しており、アジアを中心とした日本の輸出回復は想定よりも後ずれする可能性がある。
日銀が最大のリスクと位置づける海外経済の動向は、目が離せない状況が続きそうだ。
<鍵握る個人消費>
一方、これまで「死角はない」(日銀幹部)とみられていた国内についても、にわかに暗雲が立ち込め始めている。
特に昨年4月の消費税率引き上げ後の駆け込み需要の反動減が一巡したにもかかわらず、力強さにかける個人消費の動向は気がかりだ。
6月の家計調査では、実質消費支出は前年比2.0%減となり、14カ月ぶりのプラスに転じた5月から再びマイナスに沈んだ。販売側の統計である商業動態統計を見ても、6月は小売業販売額(全店ベース)が前年比0.9%増にとどまっている。
低温・多雨など天候不順に悩まされた6月から一転して7月は気温も上昇しており、大手百貨店の売上高が好調に推移するなど回復の兆しはあるものの、消費を支える賃金に期待されたほどの伸びが見られない。6月の毎月勤労統計調査では、減少したボーナスを除いても実質賃金の伸びは前年比横ばいにとどまった。
総裁は今後の消費について「ベースアップの広がりや、賞与の増加効果から所得環境が一段と改善する下で消費の底堅さは、よりはっきりしていくと思う」と語ったが、市場では、足元で進行している食料品や日用品などの価格転嫁の動きが消費の足かせになっているとの見方もある。消費が伸び悩めば、コストを価格に転嫁する企業戦略が行き詰る可能性もある。
<原油再下落、物価基調への影響警戒>
こうした内憂外患に加え、ここにきてアジアなどの新興国の需要減退を背景に、原油をはじめ主要な商品価格が軒並み下落している。
総裁は最近の原油安について需要と供給の両方の要因があるとしたが、「これまでのところ、日本経済にとっては全体的に見てかなりプラスだと思う」と指摘。ただ、原油価格の動向によって物価2%の到達時期が「若干前後する可能性がある」と認め、原油安が「物価の基調的な動きに影響するとなれば、政策の調整を検討することになる」と語った。
日銀では、需給ギャップやインフレ期待などを反映する物価の基調は着実に改善を続けていると判断している。5月分から新たに公表を開始し、物価の基調の動きに近いとみられている生鮮食品とエネルギーを除いた消費物価は同月に前年比プラス0.7%まで伸び率を高めている。
それでも目標に掲げる2%には依然として距離がある。見通している2016年度前半頃の2%到達には、さらなる基調の上昇が不可欠だ。需給ギャップとインフレ期待の一段の改善に向け、個人消費を中心とした夏場の景気動向が極めて重要になってきた。(ロイター)
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