19742 冷ややかに習近平の訪米をまつホワイトハウス   宮崎正広

■米中間にこれほど冷たい風が吹いたことは国交回復以後なかった

習近平は9月22日から28日まで訪米する。

23日にワシントン入りし、25日にホワイトハウスでオバマ大統領と懇談をはさんで各種歓迎行事に出席するが、習近平が希望した議会での演説は米側がやんわりと「拒否」した。

習は28日に国連で演説する。安倍首相の国連演説は27日の予定という。

安倍首相訪米は大歓迎され、議会での演説は議員が総立ちとなって拍手した。対照的に習近平を待ち受ける米国の空気は冷たい。

まるで氷のように議会、ホワイトハウス、マスコミが凍てついている。

「国賓待遇をやめろ」、「訪米そのものをキャンセルせよ」、「ハッカーを止めない中国に制裁を!」という声は巷のナショナリストが叫んでいるのではない。れっきとして大統領候補が堂々と中国批判を繰り返しているのだ。

第一に9月3日の軍事パレードで、新型兵器、とりわけミサイルを陳列示威したが、米国東海岸に届くDF21のほか、通称「空母キラー」、「グアムキラー」と呼ばれるミサイルが多数ならび、米国を苛立たせた。

「この軍事パレードは『反日』『抗日』ではない。明らかに米国を攻撃するミサイルの展示であり、米国を敵視している」というのが米国の実直な感想なのである。

第二にアラスカの米国領海に中国軍艦五隻が航行した。しかも北京の軍事パレードとタイミングを合わせていたことは、米国の反中国感情に正面から火を付けた。

中国が言っている「平和」「覇権を求めない」なんて嘘じゃないか。ならば、米国は控えてきたが、南シナ海への軍艦派遣もありうると反応した。

第三に上海株暴落に連鎖したかたちで、ウォール街の株価暴落に、老人年金、自治体年金が悲惨なほどの被害を被り、アメリカ人個人投資家がむくれていることが、世論のバックにある。

しかも上海暴落を中国メディアは「米国が悪い」とすり替えたことにも米人投資家らは怒りを覚えた。

第四に主要マスコミも、ハッカー攻撃に苛立ち、これまでの中国重視をすっかり変節して、中国非難の合唱に加わっていることだ。

9月7日付けニューヨークタイムズの五面に「習首席訪米大歓迎、熱烈歓迎」という異色の広告がでたが、これは中国の出版社がだした『習近平時代』という600ページもの新刊書の広告だった。

どうみても中国がお家芸の対米世論工作であり、政治宣伝工作の一環である。中文と英語版が同時発売というのも、なにやら政治工作の匂いが強い。

 ▲米国はマスコミも民間人も議会も総立ちで中国きらい

米国マスコミは、ことしにはいってからでも自由民権派弁護士の大量逮捕など、米国の政治原則を揺るがす人権弾圧を強く糾弾し、同時に中国のしかけているハッカー攻撃に強い怒りを表してきた。

なにしろニューヨークタイムズも、ウォールストリートジャーナルも編集部が中国のハッカー攻撃をうけた。

共和党の大統領候補として名乗りを上げているドナルド・トランプは『人民元切り下げはドル体制を脅かすものであり、習近平訪米の国賓待遇をとりやめろ』と演説した(8月24日)。

同スコット・ウォーカーはもっと過激で「訪米そのものを中止させよ」と叫び、『市場の混乱はすべて中国に責任がある』と獅子吼した。
 

米国内で中国を褒めているのは前世界銀行総裁のロバート・ゼーリックくらいである。かれは『米中関係はステーク・ホルダーだ』と提議し、ブレジンスキーとともにG2関係と持ち上げた親中派である。

英国マスコミは『習訪米はトウ小平以来の重要な外交行事となる』などと、変な持ち上げ方をしているが、これは米国マスコミ論調と百八十度ことなる。英国はAIIBに真っ先に参加表明するなど、このところドイツとともに、その対米協調路線が大幅に修正されている。

ならば貿易・通商関係で米中関係の重要性を説く人はいないか、と言えば米国実業界でも少数派である。

理由は貿易において、米国の対中国依存度は7%台であり、重視する必要性がなくなっているからである。

巨額を投資してきた米国の投資銀行も中国の提携銀行や証券会社への出資をとうに引き上げた。

ちなみに対中国輸出の国別ランキングを一覧してみょう。

対中国輸出依存度ランク
~~~~~~~~~~~

(1)モンゴル       90%
(2)北朝鮮        76
(3)コンゴ        53・8
(4)アンゴラ       44・7
(5)コンゴ共和国     43
(6)オマーン       38・2
(7)豪州         36・1
(8)南アフリカ      32
(9)スーダン       31・5
(10)イエーメン     29・4

(11)台湾       27・1%
(12)イラン      26・8
(13)韓国       26・1
(14)ラオス      25・1
(15)チリ       24・9
(16)ミャンマー    24・5
(17)カザフスタン   22・7
(18)ニュージーランド 20・8
(19)イラク      19・7
(20)ブラジル     19

(21)日本       18・1%
(22)キューバ     15・2
(23)マレーシア    14・2

らち外
  米国         7・7%
  ロシア        6・8
  ドイツ        5・4
  カナダ        4・4 

 なるほど北京の軍事パレードに親日国である筈のモンゴルが参加した理由も、よく分かる。中国がお得意様という資源国が上位十傑に並んでいる。

つづいて工業中進国と資源国がつづき、あれほど中国依存が高いと言われた日本は21位でしかないことも歴然とするのである。

 
習近平は権力基盤を急ぎ、軍事力誇示という拙速行動にでたことにより、外交的に大きな失敗を演じる結果を招いたのである。

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