19753 抗日パレードで誇示した精鋭・ミサイル部隊「第2砲兵」   古沢襄

■台湾が注視するその実力とは?

 
9月3日に北京で行われた「抗日戦争勝利記念」の軍事パレードでは、中国の最新兵器が天安門広場を行進した。

中でも戦略ミサイル部隊「第2砲兵」は、初公開の東風(DF)21Dなど7種類の新型弾道・巡航ミサイルを登場させ、近代化の成果を誇示した。

第2砲兵は、米露など核保有国を対象とした核抑止だけでなく、通常弾頭による基地攻撃などさまざまな任務を担う。特に、多数のミサイルが向けられた台湾にとりは深刻な脅威となっている。(台北 田中靖人)

■台湾方面に集中配備

第2砲兵は1966年7月、国務院総理(首相)だった周恩来が命名し成立。1987年には陸海空軍と同格の第4の軍種に昇格した。人民解放軍の最高意思決定機関である中央軍事委員会の直属部隊だ。

弾道ミサイルだけでなく、陸上発射の巡航ミサイルも運用する。

パレードで登場したDF10Aは、以前は長剣(CJ)10と呼ばれていた巡航ミサイルだ。第2砲兵は、核兵器による抑止(中国は核の「先制不使用」をうたっている)だけでなく、通常弾頭による攻撃任務も持っていることが、他国の戦略部隊と大きく異なる。特に台湾侵攻の際には、一斉射撃により「ドアを蹴り破る」(米ランド研究所)役割を担う。

国防部(国防省に相当)は8月31日、中国の軍事力に関する年次報告書(非公開)を立法院(国会)に送付。

産経新聞が入手した報告書によると、第2砲兵の総兵力は約15万人で、配備済みの弾道・巡航ミサイルは約1700発。うち約1500発が台湾方面に配備されている。与党、中国国民党の立法委員(国会議員)によると、過去4年間は「14万人、1600発」で推移しており、旧式のミサイルから新型ミサイルへの更新が終わり、さらに拡大傾向に入った可能性があるという。

■米国全土が射程

国防部が公開している2002年の研究論文によると、中国は射程1000キロ以上を「戦略ミサイル部隊」、1000キロ以下を「戦術ミサイル部隊」とし、任務を明確に分けているという。戦略部隊は核弾頭搭載型による核抑止が主な任務で、ミサイルの数も相対的に少ない。

今回のパレードでは登場しなかったが、最近の報道で注目されるDF41は、米国全土を射程に収める固体燃料、車両移動式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)。発射までの時間が短い上、多弾頭化で米国のミサイル防衛(MD)網を突破する可能性があり、「開発を継続中」(台湾・国防部報告書)とされる。

パレードで登場したDF31AとDF5Bはいずれも米国が標的の核ミサイル。DF31Aは固体燃料の車両移動式で、米国本土の大半を射程に収める。一方、DF5Bは旧式の液体燃料式だが米国本土全域を射程に収め、中国国営中央テレビ(CCTV)は「多弾頭個別誘導式(MIRV)」だと紹介した。

パレードでは、米国防総省が毎年公表している中国の軍事力に関する報告書で、外国メディアなどの情報として間接的にしか記述されていかなったDF26も初公開された。

軍事情報会社ジェーンズなどによると、DF26は射程3000~4000キロで、中距離弾道ミサイル(IRBM)に分類される。西太平洋における米軍の拠点グアムを射程に収め、「グアムキラー」とも呼ばれる。核弾頭と通常弾頭の両用だと紹介された。

■通常型ミサイルの脅威

使用に政治的な「敷居」が高い戦略核ミサイルと比べ、通常弾頭のミサイルは多用途で“使い勝手”が良く、脅威として見過ごせない。

中国は、1990年代中頃から急速に通常型のミサイル戦力を拡充しており、今や米軍が警戒する「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略の中核を担っていると言っても過言ではない。

特に、初公開のDF21Dは「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイルで、射程約1500キロ。西太平洋上の米空母を攻撃できるとされる。2010年の台湾の国防白書で「すでに初歩的な空母攻撃戦力を備えている」と記されていたが、中国が今回、一度に12発を公開しことで、米海軍が中国沿岸への接近に、より慎重になる可能性がある。

また、同じく初公開のDF16は射程800~1000キロ。台湾向けのDF11、DF15の後継だが、台湾だけでなく沖縄も射程に収めるため、香港メディアは「沖縄エクスプレス(快速便)」と呼んでいる。

米国防総省の15年版年次報告では「通常型のミサイル戦力」に分類され、沖縄の米軍や自衛隊の基地に対する攻撃に使用されるとみられる。パレードではDF15Bと並び、精密攻撃に使用すると紹介された。

■馬政権の反応鈍く

今回のパレードと台湾の報告書からは、第2砲兵が質、量ともに増強されていることが明らかになった。台湾向けのミサイルだけでなく、米国に対する抑止力や接近阻止・領域拒否能力を誇示することで、台湾有事での米軍の介入を躊躇させる狙いもある。

2000年の就任以来、中国優先政策をとってきた馬英九政権だが、中国側は着々と台湾侵攻能力の増強を図ってきた格好で、1日付の自由時報は「馬政府の開放政策の結果、脅威は減らずに増えた」と揶揄(やゆ)。

習近平国家主席が掲げる「両岸(中台)は一つの家族」というスローガンにも、野党、民主進歩党の頼清徳台南市長は「ならば、なぜミサイルの照準を当てるのか」と批判している。パレードで公開された最新兵器について、馬政権は3日、何のコメントも出さなかった。(産経)

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