■「宏池会を草刈り場にさせない!」 その変貌ぶりに周囲は…
「自民党総裁選に関して緊急の幹部会を開きたい。今晩、時間はありますか?」
総裁選告示を前に野田聖子前総務会長が立候補に向けた推薦人集めに奔走していた9月4日。
岸田文雄外相は自身が会長を務める岸田派(宏池会)の幹部に電話し、緊急会合を呼びかけた。宏池会名誉会長の古賀誠元幹事長が野田氏の推薦人集めを支援し、宏池会の一部議員に声をかけているという情報が永田町に広まったからだ。
総裁選出馬を見送った岸田氏は8月27日の派閥会合で、各議員から意見を聞いた後、「私たちが支えている政策をしっかりと実現しなければ、日本の政治、自民党自体が危機に陥ってしまう。安倍政権をしっかりと支えていかなければならない」と訴え、安倍支持を派閥決定とした。
この時、岸田氏は周囲に「宏池会を草刈り場にはさせない」と語気を強めて話していた。もともと党内のハト派である宏池会は、安倍首相に近いわけではなく、「反安倍の動きで声をかけられやすい」(党中堅議員)とされた。
岸田氏にとって、組織決定後に派内が乱れて“造反”議員が出れば、宏池会の名を汚すことにもなる。池田勇人をはじめ、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一ら多くの首相を輩出した伝統派閥を束ねる会長としての意地があった。
前会長の古賀氏であっても「派閥の一致結束」を乱す行動を許さなかった岸田氏の今回の対応は、「これまでの古賀-岸田ラインに変化をもたらした」(党幹部)とされる。
古賀氏と同じように宏池会を「保守本流」と呼ぶ岸田氏。
安倍政権が取り組む集団的自衛権の限定的行使を含む安全保障関連法案の重要性を理解している。周囲には「日本を取り巻く安全保障環境がどのような状況にあるかをよく理解し、現実的にどう対応していくことが必要か考えることが大事だ」と語り、政治家として現実にある課題の解決に注力する。
講演で「ハト派だろうがタカ派だろうが、立場を超えて国民の生命・財産を守るためにどうしたらよいかを考えるのは大切だ」と語ったこともある。
そもそも淡々と実務をこなすタイプで、派手な演出や強い個性で組織を引っ張るタイプではない。そんな岸田氏だが、外相としても変化し始めている。
平成24年12月の第2次安倍政権発時から外相を務める岸田氏の記者会見での発言は、菅義偉官房長官の記者会見の内容とほとんど変わらないことが多い。閣内不一致ととられないように政府の公式見解として常に細心の注意を払って発言しているのだ。
その慎重さから、党内からは「個人で政策を判断していないのではないか」「外務官僚の操り人形で、面白みに欠ける」などと皮肉る声もあがる。
ただ、外務省幹部によると、事務方が説明する外交政策の方針などについて見直しを指示することが増えてきたという。この幹部は「政策見直しを指示され、考え直してみるとその指示は的確だった」と語る。
重要閣僚である外相ポストは、首相への登竜門の1つとされるが、党内で岸田氏をポスト安倍として推す声はまだ弱い。派閥の領袖、外相という重責を担う岸田氏の変化を、永田町だけでなく霞が関の官僚たちもうかがっている。(産経)
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