与野党の激しい国会攻防の末、安全保障関連法が9月19日未明、参院本会議で可決、成立した。成立阻止を掲げる民主党を中心に3日3晩にわたって続いた野党の抵抗は、「言論の府」とは思えない乱闘騒ぎにまで発展した。
それでも民主党内では本会議直前まで徹底抗戦を続けるべきだという「主戦論」が充満していた。政権与党を経験した政党とは思えない“暴走”の経緯を振り返る。
9月18日午後11時過ぎ、参院本会議場近くで民主党の参院議員総会が開かれた。約1時間後の19日午前0時10分から、安保法案を採決する本会議が予定されていた。総会は採決を前に最終的な意志統一を確認する場だったが、その空気を裂くような発言が飛び出した。
「牛歩でもなんでもいい。まだ9月27日まで会期がある!」
「ここで本当に採決に臨むのか。もっと徹底的に戦うべきではないか!」
複数の議員から、採決を妨害する遅延戦術などを徹底して続けるべきだとの強硬論が噴出した。
このとき党執行部はすでに採決に臨んだ上で反対票を投じる方針を決めていた。にもかかわらず、主戦論が叫ばれたのである。出席者によると、徹底抗戦の継続を歓迎するムードに包まれかけたという。
しかし、現実的ではない。
民主党の抵抗を国民が手放しで評価しているとは思えない上、問責決議案も出し尽くし、衆院では内閣不信任決議案も否決されていた。もはや、抵抗手段は枝野幸男幹事長が「理解を得にくい」と否定した「牛歩戦術」しかない。それでも複数の議員が「牛歩でもいい」と主張したのだった。
参院議員総会に緊張感が漂う中、郡司彰参院議員会長が口を開いた。
「われわれは廃案を目指してきた。確かに9月27日まで会期はある。ただ、賛否をきちんと明らかにし、後世に(意思表示が)残るようにすることも大事だ」
普段は感情を表に出さない郡司氏が、珍しく熱っぽく続けた。
「まだ戦いたいという心の叫びは否定しない。だが、日本軍ではないが、精神力だけでは無理だ。文句があるなら私に言ってほしい。皆さん、最後までひとつにまとまってほしい」
陪席していた岡田克也代表がこう締めくくった。
「みなさん本当にありがとう…」
乾いた拍手が鳴り響き、参院議員総会は終了した。
◇
常軌を逸した行動を取り続けた民主党だが、わずか3年前は政権与党の座にあり、日本の安全保障政策に直接責任を持つ立場にあった。それが「廃案」一辺倒で突き進んだ背景に何があったのか。
安保法案の審議は5月下旬に始まり、約4カ月間続いた。意外なことに、民主党は当初から徹底抗戦ではなかった。
7月15日の衆院平和安全法制特別委員会の採決では、民主党議員らは委員長席に駆け寄って懸命に採決を阻止しようとしたが、閣僚への不信任決議案などの対抗策は取らず、物理的な抵抗は散発的だった。
民主党の戦略方針が確立されたのは7月27日だった。党の安全保障政策の重鎮で、参院特別委の筆頭理事を務めた北澤俊美元防衛相が、同日の参院本会議で行われた代表質問で「国民が求めているのは対案ではなく、廃案である」と言い切ったのだ。
民主党内では当時、保守派や現実論者を中心に「対案」の提出を目指す動きが活発化していた。反対一辺倒では政権与党を経験した政党として無責任だ-。そんな常識的な考えを持つ議員や、かつての社会党のような「何でも反対」路線に嫌悪感を覚える中堅、若手も少なくなかった。
だが、党執行部に影響力を持つ北澤氏の発言で流れが変わった。外相経験者で、集団的自衛権の将来的な行使の可能性を否定しない岡田氏も、北澤氏に追随するように「廃案」路線にかじを切った。閣僚の答弁の不安定さを追及しているうちに、「このまま政府を攻め切れる」との判断に傾いたともいえる。
この後、もともと力の弱い党内の保守派、現実論者の影響力は次第に執行部に及ばなくなった。執行部内で対案にこだわってきた細野豪志政調会長は、グレーゾーン事態に対処する「領域警備法案」を維新の党と共同提出するだけで精いっぱいだった。
さらに、廃案路線を後押ししたのが国会周辺のデモだった。安保法案の審議中、安倍晋三内閣が40%前後の支持率を維持していることに不安を募らせた党幹部らは、「デモに飛びついた」(若手)という
民主党は日増しに拡大していくデモに過剰な期待を寄せ、デモとの一体化を重点的な戦略に位置づけるようになった。今回の安保反対デモは政党色が薄く、無党派層に近いのが特徴ととらえていた節もある。
国会内でもシュプレヒコールが聞こえるデモは、必要以上に民主党議員を鼓舞した。党幹部の一人は9月16日夜、参院特別委での採決をめぐり緊迫する中で「まだデモやってるね。勇気づけられるよ!」と笑みをみせていた。
国会での徹底抗戦が支持されているとの感触を持ったのは岡田氏も同様で、18日の記者会見では「手応えを非常に感じている」と語っていた。今回の行動が国民的支持を受けていてのことだと考えているとしたら、大きなしっぺ返しに遭うだろう。(産経)
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