第三次世界大戦へ発展するリスクはどの程度あるか
シリア内戦に本格的に参加したロシア軍の軍事行動によって中東の地政学におおきな変化が起きた。
第一にイランの影響力が後退しつつあること、サウジアラビア、アブダビなどの湾岸諸国とロシアが密接な連絡をとり、或る方面では連携する場面もある。
イランが永極力を弱めたという意味はヒズボラなどイスラム過激派がアサド支援にむかっていたために発言力が強かったが、ロシア参入により、相対的に影響力が弱体化しているということである。
第二に湾岸諸国がロシアの顔色をうかがい始めたことだ。
ソチにサウジアラビア国防相とアブダビ皇太子が飛んでプーチンと協議したことはニュースに流れたが何が話し合われたかは明らかにされていない。
『プラウダ』などの分析によれば、「湾岸諸国は地域でのイランとシリアの影響力増大を望んでいない。それゆえロシアが反政府勢力を空爆することには理解できないが、ロシアはあくまでもISISを空爆して、テロリストの殲滅に力を注いでいるとするプーチンの説明を受けた」。
これまでは基本的に地域内の主導権争いであり、サウジアラビア vs イランという対立構造のなかでのスンニ派vsシーア派だった。
シーア派に近いシリアをイランは支援し、サウジ、湾岸諸国は反政府勢力にテコ入れしていたが、ここにISISという予期せぬ要素が突出し、事態はいきなり複雑に輻輳しはじめた。
第三に米国はアサド政権打倒のために反政府勢力に軍事訓練を施し、武器を空中から投下したり劣性挽回に懸命だが、他方で「ロシア参戦によってイランの影響力を削いでいる」(『ナショナル・インタレスト』の分析)とする見方がでている。
これらに共通するのは「地域内にいかなる『国家』を認めず、また国家を目ざす組織を認めがたい」とするもので、クルド独立への理解は稀薄である。トルコは事態に便乗し、クルド武装勢力の拠点空爆に力点をそそぐ。
こうした現状維持という共通項が失われ、ウクライナ問題で欧米と退治しているロシアが参戦してきたことで未来が不透明になったのだ。
▲スペイン内戦のいくつく先は世界戦争だった
第四は中国の出方である。
中国は冷戦時代のメンタリティを米ロ両国が復活させているのではないかという疑問点に立脚しており、「米国はシリア問題に便乗し、外交的ならびに軍事的に得点をあげ、主導権を確保する狙いがある。ロシアも米ソ冷戦時代のようにスーパーパワーの代理戦争を行っているかのごとくである」とする。
しかし戦争の行方によっては、地域内の覇権を求めず、一方的な利益を主張する国、あるいは組織の跳梁を認めず、現状を破壊して第三次世界大戦に繋がる可能性がありはしないのかと、たとえば『人民日報』もそうした分析しはじめた。
原型はスペイン内戦である。
1930年代のスペイン内戦は、フランコを支持するナチスとロシアとの代理戦争に、多くの義勇兵が反フランコ側に駆けつけた。なかにはヘミングウェイ、マルロォの姿もあったように、シリア内戦ではシリア防衛にイランと露西亜、反政府側に欧米と湾岸諸国という構造であり、この隙に世界中らイスラム義勇兵がISISに駆けつけるという文脈では、スペイン内戦がそのご世界的規模の戦争に発展してしまったように、危機を内包しているというわけである。
日本は遠い中東の出来事を対岸の火事視しながらも、イランとは経済的結び付きを復活させようと投資の再開に懸命となっているだけ。もっとも軍事力のない国に出番はないが・・・。
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