■安保法制違憲論、現実に目をつむる一部政治家らの異様さ
安倍晋三首相は18日、米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)に配備された原子力空母ロナルド・レーガンに現職首相として初めて乗艦した。一部のメディアは「日米軍事一体化」などと否定的に捉えていたが、海洋への膨張を進める中国への鮮烈なメッセージとなったことだろう。
米原子力空母が日本を母港としている意味、日米の強固な連携ぶりを強調することは抑止力につながり、中国に自制を促す効果があったのは間違いない。
■学界と世論の乖離
また、これに先立ち神奈川県沖の相模湾で行われた海上自衛隊観艦式での安倍首相の訓示も興味深かった。首相はこう皮肉っぽく「過去の議論」を紹介したのである。
「残念なことに、諸君の先輩たちは心ない多くの批判にさらされてきた。中には、自衛隊の存在自体が憲法に違反するといった議論すらあった」
安倍首相はあえて過去形で語っていたが、自衛隊違憲論は現在でも学界では多数派である。朝日新聞がこの6月、憲法学者らに実施したアンケートでは、自衛隊を「違憲」または「その可能性がある」と答えた人は計77人に上り、「違憲には当たらない」「その可能性がある」は計41人にとどまった。
1月に内閣府が行った世論調査では、自衛隊に好印象を持つ人が92・2%に上り、昭和44年の調査開始以来最高となっているにもかかわらず、大半の憲法学者にとっては自衛隊はいまも不当・不正な存在だということになる。
憲法学界の主流の見解と世論・国民意識との乖離に驚くしかないが、もともと一般社会の利害や必要と離れた学問の世界とはそういうものなのだろう。
ジャーナリストの櫻井よしこ氏が本紙9月7日付朝刊で指摘していたように、憲法学者である小林節・慶大名誉教授は6月の衆院平和安全法制特別委員会で、学者の立場を次のように説明している。
「(われわれは)ただ条文の客観的意味はこうなんだという神学論争を言い伝える立場にいる」
「神学でいくとまずいんだ、ではもとから変えていこうと政治家が判断することはあると思う」
「われわれは字面に拘泥するのが仕事で、それが現実の政治家の必要とぶつかったら、それはそちらで調整してください。われわれに決定権があるなんてさらさら思っていない」
もっともな話であり、率直な表明だと感じる。問題は、学者の「神学論争」を神の啓示であるかのように絶対視し、それに逆らうことは一切まかりならんとばかりに報じてきたメディアや、政治家として現実に向き合う責務を放棄して学者の意見に頼った一部野党議員の方にあるのだろう。
■不毛な「異端審問」
6月の衆院憲法審査会に出席した3人の憲法学者が、そろって安保関連法案は憲法違反だとの意見を示した後の国会の論戦や多くのメディアの論調は、今振り返っても異様だった。
日本の外の世界でのさまざまな動きや厳しい現実には目をつむり、ひたすら内向きで不毛な異端審問のような様相を呈していた。
1カ月前の安保関連法成立以降の各種世論調査では、安倍内閣の支持率はおおむね上昇傾向にある。通常国会での政府・与党を悪と決め付けて面罵し、己が神学上いかに正しいかを誇るような野党による魔女狩り騒動など、国民は見たくなかったのだろう。(産経・論説委員兼政治部編集委員)
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