19990 安倍首相の中央アジア歴訪、3兆円のビジネスを展望   宮崎正広

■「日本+中央アジア」にアベノミクスのひとつの重点を置いた

安倍首相は10月22日から28日まで一週間の駆け足旅行で、モンゴルと中央アジア五ヶ国 (カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタン) を歴訪した。

これらの国々は中国とロシアに地政学的に挟まれ、激動の歴史を刻んだ。

しかし、何れも海の出口のない、内陸国家である。

一部に資源に恵まれる国もあるが、農業だけのキルギス、山岳曠野の多いタジキスタンなど、経済的苦境にあって、先進国の支援を待っている。

首相の歴訪には50社の企業幹部、団体役員が同行した。

安倍首相はウランバートルに半日を費やしたあと、すぐに最も西側のトルクメニスタンへ飛んだ。日本の首相の訪問は初めてだけに、歓迎行事も多彩だったが、実質的にトルクメニスタンは鎖国しており、なかなか入国は難しいところである(ちなみに筆者も、この国だけは行ったことがない)。

トルクメニスタンは膨大なガスの埋蔵をほこり、冷戦下ではソ連が一方的に購入していた。中国が割り込み、ここから総延長j8000キロのパイプラインを敷設して、ウズベキスタン、カザフスタンを経由、新彊ウイグル自治区から上海へ輸送している。これを『西気東送』プロジェクトという。

日本勢は日揮、住友商事などがガス田開発、発電所建設などのプラントを受注しており、首相に随行して正式の調印をめざした。

天然ガスの脱硫プラントは一兆円、ほかに三菱商事などの化学プラントが5000億円、住商の火力発電が400億円、東洋エンジニアリングの肥料プラントが4000億円などである。

首都のアシガバードでのベルドイムハメドフ大統領(ニヤゾフ前大統領の庶子)との会談でも安倍首相は「質の高いインフラ整備に協力する」と日本の立場を協調した。

 ▼タジキスタンも首相訪問は初、ウズベクは顔見知り

二番目の訪問国はタジキスタンである。

ラシモン大統領と会談し、地域の安定、とくに国境警備や麻薬対策に関しての協議をおこなったほか、98年に慟哭で過激派の犠牲となった秋野豊氏の慰霊碑に献花した。

同国に日本の首相が行くのは初めてである。

三番目の訪問国はウズベキスタンである。

首都タシケントでカリモフ大統領との首脳会談にのぞみ、人材育成、高度技術センターの開設、物流インフラへの整備協力などが話し合われた。

またナボイ医療センター工事に68億円の無償援助がきめられた後、首相夫妻は日本人墓地を訪れて献花した。

そののち、ナボフ劇場へ赴いたのも、ソ連抑留時代の日本兵が、この劇場を造った曰くがあり、しかも66年のタシケント大地震のときに、ほかの建物は倒壊したのに、この日本人が造った劇場だけは倒壊しなかった。

ウズベキスタンはすでにカリモフ大統領が数回訪日を重ねており、日本にはなじみの深い。ガスプラント、原子力発電開発、農業指導などで協力を積み上げてきた。

▼ギルギス

四番目の訪問国はキルギス。

ここでは三菱商事、双日など五社連合による、ガスの前処理施設の建設に協力し、16年ぶりの円借款が成立した。ほかにビシュケク → オシ間の新幹線道路整備建設に120億円の円借款を金利1%、四十年償還(十年据え置き)という有利な条件で供与する。

すでにJICAを通じて多くの無償援助をなしてきたが、首相訪問であらたに16億円を無償援助し、マナス空港の施設改良工事などをアタムバエフ大統領との面談で決めた。

キルギスは風光明媚で観光には恵まれているが、工業のインフラがよわく、大学をでたキルギスの学生はロシアなどに出稼ぎへ行っている実情がある。

▼カザフスタンの首都で「日本+中央アジア」の記念スピーチ

最後の訪問先カザフスタンで安倍首相は歴訪を締めくくる記念スピーチをこなし、「アジアの中央に位置する国々は何千年にもわたって東西の文明の交差点となってきた。多用な文化を受け入れる包容力、多様性のなかかから生み出され未来を切り開く活力、それこそが中央アジアの魅力だ」として、これからの『関係を抜本的に強化する』とした。

また「日本の民間企業の意欲は高まっており、日本政府も公的協力、民間投資の後押し、インフラ整備、人作りを支援する。今後、三兆円をこえるビジネスチャンスを生み出す」と演説し、アスタナを後にした。

こうして安倍首相の「地球儀を俯瞰する外交」は中国の後背地を丹念に訪問して、地政学的にも楔を打ち込む格好となった。

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