■背後で中国は「SDR外交」を展開し、猛烈なロビィ工作を展開していた
日本のメディアは「アセアン拡大国防相会議」と報じている。アセアン加盟十ヶ国に日米中など合計18ヶ国の国防大臣が結集し、地域の安全と平和を話し合うわけだから、この命名でも通らないことはない。
しかし。この会議の看板をみて驚くことがある。
マレーシアで開催された会議なのに、なぜか看板は中国語がトップ。それも「中国―東亜国防部長非公式会語」となっている。弐番目に英語表記があって、「CHINA-ASEAN DEFENSE MINISTER INFORMAL MEETING」とあるのだ。まるで主催者は中国である。
しかも『非公式』であるからには法的拘束力を伴わないとはいえ、共同宣言をめぐって強く「南シナ海」の危機の文言をいれることを主張したのはベトナムとフィリピンに過ぎず、領有権を主張するマレーシアとブルネイは「中立」的態度をとった。このためインドネシア、シンガポール、ミャンマーが中立に同調し、反対したはラオス、タイ、カンボジアだった。
すでにラオス、カンボジアに関しては中国との関係があまりにも濃密であり、国際会議では中国の代理人の役目を演じるが、この列にタイも加わったことは記憶して良いだろう。
正式メンバーではないが、発言権のある米国は正面から南シナ海の人口島建設に強い異論を唱えたが、中国側は「これはアセアン域内の問題であり、『域外国』は関与するな」と明確に米国と対立し、責任を米国に押しつける戦術をとった。
このようにアセアン国防大臣非公式会議で中国が主導権を取り、主役として振る舞ったのも、看板が象徴するように、会議は中国が用意し、中国がシナリオと演出を担当し、事前に『SDR外交』を展開して、入念な準備をしていたように見受けられる。
直前に豪のダーウィン地方政府は「中国の嵐橋集団がダーウィン港を99年間租借する」ことに合意したと発表した(多維新聞網、11月4日)。賃貸料は5億豪ドル(邦貨換算でおよそ500億円)である。
ダーウィンは、豪軍の基地があり、しかもダーウィン軍港は南シナ海を守備することを含む防衛態勢の要、しかも米海兵隊が駐屯している基地の町ではないか。
中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)、一帯一路(シルクロード構想)でアセアン諸国に巨大プロジェクトと融資を持ちかけるという札束外交を展開してきた。
会議直前に人民元のSDR加盟がほぼ確実になったため、これからはAIIBと通じて人民元建ての貸し付けも可能となる展望がひらけ、この経済力を背景に、各国を根回ししたのではないのか。
アセアン国防相会議で中国を非難する共同宣言が見送られたことは、孤立してきた中国の外交上の反撃となった。
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