20036 ヒラリー・クリントン外交とキッシンジャー   古沢襄

来年一月に「日高義樹のワシントン・レポート」(テレビ東京)が放映される。しばらくキッシンジャーのナマの声を聞かないので興味がある。1923年生まれのキッシンジャーは92歳。かなりのお年寄り。

宮崎正広さんは「キッシンジャーは北京の代理人?」と厳しい見方をする。私はそこまでは言わないが、キッシンジャーが北京をバランス・オブ・パワーの一枚カードとして重視しているのは間違いない。それが、かつてのような”切れ味”があるか、どうか。

キッシンジャーがニクソン政権で推進した外交の特徴はその現実主義にあった。世界的なバランス・オブ・パワーに視座を据えている。

その視座の中心にあったのは、アメリカ、ロシア、中国であったろう。ユダヤ系ドイツ人だったキッシンジャーはヒトラーのドイツを憎む感情が誰よりも強い。そのドイツと同盟を結んだ戦前の日本に対しても、その復活に警戒感を隠さない。

1971年極秘裏に北京を訪問したキッシンジャーは、周恩来首相と秘密会談を行い、日米同盟は日本の軍事暴走を食い止めることになり、米軍が日本に駐在していないと日本がいつ暴走するか分からないためだと、周恩来に説明している。

2017年から2012年にかけて中国を訪問し、習近平国家主席と会談して、習近平とは非常に緊密な仲となった。宮崎正広さんが「キッシンジャーは北京の代理人?」というのは、キッシンジャーが周恩来と同じような親近感を習近平に抱いているからだろう。

2008年以来キッシンジャーは「日本は10年後に強力な軍隊を保有しているだろう」と警告している。

安倍政権の誕生は戦前復帰、日本の憲法改正や核武装の一歩としてキッシンジャーのバランス・オブ・パワー論にとって好ましいものではない。

だが第二次安倍内閣は、憲法改正や核武装といったタカ派色を避け、不況克服といった経済・貿易に絞った政策によって国民の支持を得てきた。

キッシンジャーが懸念するのは、日米同盟がさらに強化されれば、その経済力、軍事力が中国をはるかに凌駕することになるから、アジアにおけるバランス・オブ・パワーが崩れかねないということであろう。アジアで日米が主導権を握って、中国が後退すれば軍部の暴発を招きかねない。

高齢になったキッシンジャーにはかつてのような国際的な影響力がなくなったとみているし、かつてのような”切れ味”も薄れたというのが私の見解だが、それでも注目すべき存在であるのは変わりない。

もうひとつ、注目すべきは多分、ポスト・オバマの米大統領として登場するであろうヒラリー・クリントンがキッシンジャーのバランス・オブ・パワー論や対中国政策をどうみているかである。

興味あるのは、ヒラリー・クリントンがキッシンジャーの新刊『世界秩序』について書評を書いていた。(ワシントン・ポスト紙)

要約すれば①アメリカは国際秩序を形成する指導力を引き続き発揮しなければならない②アメリカの指導力の源泉となるのは自由と民主主義の価値観である・・明らかに対中国牽制に転じたアメリカのいまの姿勢をヒラリー・クリントンも容認している。

とはいえヒラリー・クリントンが大統領になって、軸足を日本に移し、中国の野望を挫くというような短絡した見方はとれない。現実に大統領になれば、対中国政策はかなり慎重なハンドリングをとるのであろう。

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