20110 「トランプ大統領」は悪夢か幻覚か   宮崎正広

■共和党はトランプ候補となれば分裂、ヒラリーは漁夫の利を得る

筆者(宮崎正広)は過去二回、トランプを論じた。

初回は「大統領選を十倍楽しませてくれた」と、茶番の主人公として、二回目は共和党内の動きを見ながら「トランプでもええじゃないか」と、やや投げやりな空気、しかしレーガンの地滑り的な大勝があったように、可能性を絶対に否定は出来ないと論じた。

それから日が流れ、完全に流れが変わった。

パリで米国でイスラムのテロリズムが猛威をふるい、フランスでルペンの率いる「国民戦線」が第一党の躍り出たうえ、EU各国で左翼政権は大きく後退し、ドイツですら「ペギータ」運動が生まれ、英国にはUKIPが、スコットランド独立運動の影に隠れたが勢力を躍進させている。

米国もオバマ政権への不満は爆発的であり、その微温的なシリア政策、ISへの空爆の成果はあがらず、ロシアの外交的闖入と勝利、そして無原則的なイランとの妥協などをみていると、オバマ政権の無能への怒りが渦巻き、ヒラリーの人気は左翼メディアと党内左派だけの支持から一向に拡がらない。

フランスは左翼政権だが、オランド大統領はいやがおうでもルペンの動きを注視しつつ、微妙に政策を変えているように、オバマは結局、アフガンに兵力を留めざるをえなくなり、ISへの空爆をこれから強化せざるを得なくなるだろう。

さてトランプだが、イスラム移民を排除し、新しい入国を断固拒否せよ、などと拝外主義的傾向を強めながら、党内の主要候補だったブッシュを霞ませてしまった。

トランプが党大会で正式候補になる可能性が全否定できなくなった。

というのも、党内では、かれなら勝てるかもしれないというムードが拡がっているからだ。
 

むろん来年一月からはじまるニューハンプシャー州などの予備選を経て、スーパーチューズディで党内の優劣が判明するまで、予断を許さないが、現時点では次の仮説が成り立つであろう。

もしトランプが共和党の正式大統領候補として撰ばれた場合、党内で彼に不満を持つ人々が独自候補の選定に動き、92年のロスペローのように、党内を分断する動きをしめるだろう。

そしてかなりの得票を得ることになる。その場合、トランプvsヒラリーでは良い勝負となるだろうが、共和党分裂となれば、ヒラリーの漁夫の利が転がり込む。夫君ビルがそうやって当選したように、彼女は幸運を射止める可能性が高まる。

かと言ってトランプ以外の政治家が共和党の正式候補になっても、トランプが獅子吼したイスラム排斥という感情的スローガンを政策的にどう処理するかという問題に直面する。

むろん、議会は保守リベラル入り乱れ、大統領権限さえ覆せる仕組みなのだから、いかなる強攻策も阻止するであろう。つまり現時点でトランプの言っているイスラム強制送還、入国拒否などは到底実現は不可能なのである。

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