20217 千曲川 毛針 ハヤ ウグイ 酒びたり   古沢襄

信州で少年時代を過ごしたので、千曲川の想い出は尽きない。水泳は得意ではないが、対岸まで”抜き手”で泳ぐことは出来る。朝早く、自転車で千曲川の川べりまで行って、毛針でハヤ釣りをしたものだ。

もっともハヤとウグイは同じだとは知らないでいた。

亡友の渡辺幸雄さんが川辺でウグイ料理をご馳走してくれた。「信州ではハヤというそうだよな」と言われ、「ハヤはもっと小さい」と言ったら笑われた。

「信州人は甘露煮ができるほど大きくなる前にウグイを食べてしまうから”ハヤ”なのか」とからかわれた。

たしかに千曲川で釣ったハヤは小さい。まだ日がのぼる前に川縁に行って、毛針で仕掛けた釣り糸を上流から下流に流すと数匹のハヤがかかってくる。

それを家に持ち帰るとてんぷらにしてくれる。川魚特有の匂いもなく、あっさりとしたハヤの味は珍味、いまも忘れられない。

毛針でハヤ釣りをするのは小諸の知人が教えてくれた。数個の毛針をくれて、それを釣り糸に仕掛けて、流し釣りをすると面白いようにハヤがピチピチ跳ねながらかかってくるという。

もっとも日中ではハヤはかかってくない。毛針に騙されてハヤが食いつくのは、日がのぼる前の早朝。小諸の知人は毛針の名人から貰ったものを惜しげなく私にくれた。

貴重な毛針だったから大切にしていた。しかし東京にきてからアユ釣りに使ってみたが、アユはこの毛針に騙されない。アユ釣り専用の毛針は別にあるのだろう。

北陸に五年いたが、そこで覚えたのはヤマメとイワナ。いろり端で串に刺したイワナをほどよく焼いたものをご馳走になった。

さらにイワナの骨酒を頂戴して、すっかり「骨酒党」になった。九谷焼の大皿にイワナの焼いた上に熱燗を注いで、親しい仲間で回し飲みした味が忘れられない。

ことしの正月は自家製のフグのヒレ酒で舌鼓み。そこに信州上田の従妹が送ってくれた真田赤備えを模した赤ビンの真田酒がきたから、もうとまらない。酒びたりの正月になってしまった。

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