■帽子から出したウサギはマイナス金利
日銀は1月29日の金融政策決定会合で当座預金への付利をマイナスに引き下げることを決定し、市場の意表を突く形でマイナス金利導入国に仲間入りした。
金融機関は日銀に預ける当座預金の一部について金利を支払う必要が生じる。中銀当局者の間で以前は考えられなかったマイナス金利策は現在、スウェーデンとデンマーク、スイスの中銀と欧州中央銀行(ECB)が銀行融資と企業投資の促進を狙って採用している。
黒田東彦総裁による今回の大胆な措置は、数十年にわたる経済の停滞に終止符を打ちたいという意欲の大きさの表れだ。
2013年の就任以来、黒田総裁は既に積極的量的緩和プログラムで債券などの資産を買い取り、日銀のバランスシートは経済規模の約4分の3に拡大。そうした中で円は対ドルで20%余り値下がりした。
黒田総裁の大胆な金融政策は、日本をデフレの泥沼から脱却させインフレ率を2%に押し上げることを意図したものだ。
安倍晋三首相が掲げる経済政策の下、日銀の政策は積極的な財政拡大と経済再生への取り組みと同時進行してきた。日銀は自らの役割を果たしてきているが、安倍首相率いる与党はそれに後れを取っている。2014年のタイミングの悪い増税で日本経済はリセッション(景気後退)に陥った。
インフレ率はなお緩慢で、実際デフレのリスクもくすぶる。輸出は期待外れで個人消費は弱く、企業の投資は不十分だ。日本の7-9月(第3四半期)国内総生産(GDP)は年率1%増だった。
ソシエテ・ジェネラルのアジア太平洋チーフエコノミスト、クラウス・バーダー氏(香港在勤)は「日本では何も順調に進んでいない。だから日銀に圧力が高まっていた」と指摘。
2月16日からの準備預金積み期間から適用するマイナス金利について「大きな効果があるかと聞かれれば疑問があるが、日銀がただ傍観しているわけではことを示すものだ。実際上よりも象徴的な意味において、かなり大きなステップだ」と指摘した。
■僅差の決定
量的・質的緩和(QQE)に0.1%のマイナス金利を組み合わせる追加緩和は、賛成が5人、反対が4人と僅差の決定だった。日本株市場では、日銀決定を受けてTOPIXは当初3.1%上昇。その後に値を消す場面もあったが、結局は2.9%高で終了した。
黒田総裁が打ち出した新たな戦略は邦銀に悪影響を及ぼす恐れもあるだけに、その効果をめぐってアナリストの見方はまちまちだ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は、実体経済にどの程度好影響を与えるのか不透明だと指摘。金融機関にとって日銀に預けた当座預金の金利は収益源だが、今後当てにできなくなると付け加えた。
DBS銀行のチーフエコノミスト、デービッド・カーボン氏(シンガポール在勤)は、20年にわたり停滞気味の経済に必要なのは政府主導の深くて痛みを伴う構造改革だと指摘し、「金融政策が全ての重責を背負うことはできない。0.1%のマイナス金利はあまり効果がないだろう」と語った。(ブルームバーグ)
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