■景気浮揚へ次の一手は…
中国経済の減速や原油価格の暴落などが重なり、年始からの世界同時株安の流れが市場を萎縮させている。
日経平均株価は19年ぶりの高水準だった昨年の大納会(1万9033円)から大幅に下落し、景気を上向かせてきたアベノミクスの行方を危ぶむ声も強い。だが、政府内は意外にも冷静で、むしろ反転攻勢に出る好機との声も出る。まずは日銀がマイナス金利導入など追加的な金融緩和に動いたが、日本経済を再浮揚させる秘策はあるのか。
■動き出した日銀
「あなたは爆撃よりも効くものを持っているじゃないですか」。年明けからまもない会合に現れた首相に近い民間人は、日銀の黒田東彦総裁に静かに語りかけた。サウジアラビアとイランの断交など中東情勢の緊迫化を懸念していた黒田氏だが、真顔でおもむろに「黒田バズーカ第3弾」を促されたことを知ると思わず白い歯を見せた。
歴史的な値動きとなった1月の金融市場は「黒田バズーカ3」の決定で混乱が収束し、円安・株高に向かうと受け止められた。マイナス金利導入を決定した1月29日の日経平均株価は476円高と大幅に反発。外国為替市場は相対的に安全な通貨とされる円が売られ、円相場は一時1ドル=121円台後半に急落した。
だが、その効果は一時的なものに限定されたというのが大方の見方で、黒田総裁は一段の金利引き下げに踏み切る可能性を示唆するなど異例の対応を余儀なくされた。
「株式市場の変動は、中国経済や原油価格下落に対する懸念などを背景としたものとの見方もあるが、日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は確かなものと認識している」
1月20日の参院本会議。「アベノミクス相場の終焉が近づいてきたとの認識があるか」と問われた安倍首相はこう一蹴すると、その後も政権奪還からの約3年間で企業収益や雇用・所得環境が改善した実績を列挙した。
長々と続く国会質疑の1シーンにすぎないが、首相答弁にはある意味が込められていると経済ブレーンの1人は解説する。そのキーワードは「デカップリング」(非連動)だ。
■ピンチをチャンスに
世界同時株安の引き金は、中国経済への不安や緊迫する中東情勢などの地政学リスクが要因となっている。投資家の警戒感はじわりと広まり、世界経済は悪材料が出るたびに連動して萎縮する。だが、首相ブレーンは「アベノミクスを上手に再起動すれば、そうした動きと日本は分離することが可能だ」と語る。
そのメーンシナリオは、アベノミクスの主役である大胆な金融政策と機動的な財政政策の「再演」だ。世界的なリスク回避の流れで円相場が上昇し、輸出面での採算悪化が懸念されるタイミングで日銀が追加緩和策を打ち出す。
緩和効果で一時的にでも金利低下・円安・株高を誘った後に、機動的な財政政策で後押しするというものだ。「この2本の矢が揃って初めて本格的な効果が生まれる」(首相周辺)という。歳出総額3兆3213億円の27年度補正予算は1月20日に成立したばかりだが、28年度は大型の補正予算案を編成して対応するプランを描く。政府と日銀の共同歩調により「ピンチはチャンスにも変えられる」というわけだ。
補正予算案の編成で財政再建が遠のくと財務省には難色を示す意見もあるが、首相官邸は「景気が悪くなれば、来年4月の消費税率10%への引き上げもない」との立場で、財務省高官は「官邸から指示があれば検討する」とも語る。
■原油安も後押し
株価下落の要因の1つになっている原油価格の下落もアベノミクスを後押しする可能性がある。
1月の原油相場は一時、約12年ぶりに1バレル30ドルを下回り、レギュラーガソリンの店頭価格は1リットル120円を割り込んだ。特に移動手段に車を用いることが多い地方では資源安の恩恵は少なくない。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、ガソリン・灯油価格の値下がりにより、2人以上世帯で年間1.3万円の負担減になると試算。原油コストの減少は企業収益にプラスとなり「賃上げの原資を稼げる」と指摘する。政府内でも資源安の恩恵は「実質的な減税」ととらえる声も多く、消費の拡大につながるとの期待は膨らむ。
ただ、足元の消費の不振は鮮明で、生産や出荷も減少するなど景気の足踏みが長期化していることへの懸念は強い。年始から動き出した「黒田バズーカ3」をきっかけに日本経済はピンチからチャンスに向かうことができるのか。デフレ脱却を旗印にした安倍政権は正念場を迎えている。(産経)
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