■敵機を意味する「アグレッサー部隊」
航空自衛隊のF15戦闘機パイロットは、機体の愛称から“イーグル・ドライバー”とも呼ばれ、世界各国の空軍パイロットのなかでも卓抜したテクニックを持つ。
そんな彼らが「別格」と畏怖する精鋭部隊が、カラフルな特殊迷彩を施したF15を操る「飛行教導群」だ。
敵機を意味する「アグレッサー部隊」として日本各地の戦闘機部隊を巡回し、訓練・指導することを主任務としている。
隊員の右胸にはドクロ、左肩にはコブラのワッペンとおどろおどろしい。ドクロには空中戦では小さなミスが即座に死に直結するとの訓戒が、コブラにはより広い視野を持てとの意味が、それぞれ込められている。
各地の戦闘機部隊との訓練では、常に訓練相手より“半歩上”をいく強敵を演じ、相手パイロットのレベルを高める。
稽古をつける相手より実力が下では話にならないが、圧倒的に強くても実のある訓練にはならない。相手のレベルに合わせながら訓練の濃度をコントロールできるところに、教導群の凄みがある。ときには日本領空を脅かす中国機やロシア機の飛行を模写することもある。ある空自パイロットは「同じF15を操縦しているとは思えない」と、その技量に舌を巻く。
拠点の新田原基地(宮崎県)では、教導群の隊員同士で日本側と仮想敵国側に分かれて訓練を行う。
通常の訓練よりも過酷な状況を想定し、中距離戦、近接格闘戦(ドッグファイト)などを行い、みずからの技を磨いている。観客を魅了する美技を披露するブルーインパルスを空自の“光”とするなら、敵機役を務める教導群は最強の“影”といったところだ。
教導群には現在、約10機のF15戦闘機が配備されている。グレーをベースとする通常のF15とは異なり、それぞれ迷彩や幾何学模様が施されている。カラーリングも青、緑、黒、茶など多彩だ。敵機役として識別しやすくするためだが、その操縦レベルの高さもあり、ミリタリーファンのなかでも高い人気をほこる。機体の模様や色は教導群が決め、塗装もみずから行っているという。
教導群に所属する戦闘機乗りは約20人とされる。他の部隊に比べれば規模は小さく、少数精鋭を貫いている。技術と経験が確かなパイロットが配属されるが、挫折から始まるケースがほとんどだという。それまで所属していた部隊では1、2を争う腕前でも、教導群では通用しない。あまりの実力差に、高くなった鼻をへし折られるところからスタートするのだ。
ただ、操縦技術がすべてではない。教導群のパイロットは、訓練で浮き彫りになった欠点や課題を相手に的確に指摘する役割もある。少しの腕の差であれば、指導者としての素養が優れているパイロットを入隊させ、徹底的に鍛えるという選択をすることもある。
日本周辺空域での中国機やロシア機の特異な飛行は増すばかり。対応する空自戦闘機の技術や戦術の維持・向上は日本の安全保障に欠かせない。敵役を務める教導群の重要性は、さらに高まっていくことになりそうだ。(産経)
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