■習近平の軍事改革は組織改編の途上、完了は2020年にずれ込みそう
習近平が軍人30万人の削減を宣言した中国人民解放軍だが、組織の改編効率化はどこまで進捗しただろうか。
四大総部は改称され、合計15の新部門が設立された。さらに「七大軍区」は「五大戦区」へと組織改編が行われたが、上層部の人事だけで、『今後、こういうことになりますよ』と内外に宣言した段階でしかない。
実際の組織再編は作業の途上にあり、なんとか第19回党大会までに整備をおえ、2020年に実際の再編が完成するのだろう、と米国の中国専門筋(後述の三名)が分析している。
軍の鉄道運搬部門を国家公共安全部へ移管し、あるいは人民武装警察へ吸収させる。非軍事部門の演芸・歌唱・音楽・舞踊部隊は軍から切り離したため、軍属歌手らは実際に解雇されている。
軍の慰問にまわる非戦闘員の女性歌手が軍内の序列で少将(習近平夫人の膨麗媛は陸軍少将)とはこれいかに、というわけだ。
習の主眼は(1)余剰人員施設の削減と効率化(2)軍事委員会の命令伝達系党の徹底化(3)新しいタイプの戦争に対応できる軍隊の戦闘力・機動力強化(4)大学、専門学校などにより軍人の質的向上、の四つに措かれていることは明らかである(第十八回党大会での中央軍事委員会の声明)
そして12月31日に十五部門の新設が発表され、2月1日には七大軍区の五大戦区への改変が発表され、各々の司令員と政治委員が任命された(小誌既報)。
しかしながら再編は加速化されているものの、実際の軍区の区分けは不明確で、たとえば山東地区の軍隊は北部所属か中部戦区所属になるのか、いまだに明確な地図わけの発表がなくメディアによって色分けが異なるのである。
また予備役部門について、従来は各地部隊が招集したり、訓練したりしてきたが、この膨大な数の予備役をいかに削減するかの青写真はなく、各部隊に決断をゆだねられている。不明瞭そのものの措置である。
▼ 軍の再編、名称の変更、効率化、集中化の不整合
指揮命令系統のシステムはまったく不明瞭で、中央軍事委員会の役目、各部門との連携や、緊急時の指揮権がどちらに所属することになるのか等システムのありかたなど、やはり不鮮明のままである。
部隊名称の変更だけで軍が効率化するとも言えず、指揮命令系統が不明確では集中化の不整合が露呈するだろう。
総じて言えることは習近平が地方軍閥化を極度に警戒しつつ、命令系統の一本化、中央への集中化をはからとうしていることだけが明確であり、地方軍閥という伝来の軍の体質を人事と組織再編で改良し、ダイナミックに組織換えをスピードアップすることで計ろうとしていることである。
しかし軍閥化するのは古来よりのかのくにの軍の体質でもあり、近代化への脱皮が短時日裡に可能になるとは考えにくい。
「習のめざす軍事力の効率化、組織再編の完了は2020年を目処としている」と結論づけたのは米国のチャイナウォッチャーとして健筆をふるう退役軍人の三人で、この報告書に拠る(ジェイムズタウン財団『チャイナ・ブリーフ』、2016年2月8日号)
当該の三人とはケネス・アレン元北京駐在武官。北京語に流ちょう。空軍出身。
デニス・ブラスコは退役大佐。23年間、軍のインテリジェンスを担当し、北京、香港の駐在武官を経験。「今日の中国陸軍」などの著作がある。
ジョン・コルベットも同じく退役大佐。『季刊中国』『中国戦略レビュー』などに寄稿している。
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