米国は10月27日、南シナ海にイージス艦を派遣、中国が人工島を建設し、「領海」を主張するスプラトリー(南沙)諸島の人工島12カイリの内側を航行した。米国がこのタイミングで行動に出た理由は。日本への影響は。防衛問題や安全保障に詳しい日本大学の勝股秀通教授に分析してもらった。
米国がようやく重い腰を上げた――。10月27日、米海軍は横須賀基地配備のイージス駆逐艦「ラッセン」を南シナ海に送り込んだ。中国が「領海」と主張し、他国海軍艦艇の航行を拒否しているスプラトリー(南沙)諸島の人工島12カイリ(約22キロ)の内側を航行し、哨戒活動を実施するためだ。中国の主張を拒否する姿勢を示すためで、沖縄・尖閣諸島に続いて南シナ海でも、国際秩序を破壊し、自国の海にしようと画策する中国との終わりの見えない長い戦いがはじまった。
南シナ海では、1970年代に海底油田が見つかるなど豊富な天然資源の存在が明らかになると同時に、中国やベトナム、フィリピンなどの沿岸国の間で、岩礁などの領有権をめぐる対立が顕在化した。
中国は74年と88年、ベトナムに対して軍事力を行使し、パラセル(西沙)諸島のウッディ・アイランド(永興島)などの実効支配を確立、その後は南シナ海に面した海南島に大規模な海軍基地を建設した。そして、チベット・ウイグル・台湾だった中国の核心的利益に南シナ海が加えられ、2012年には南シナ海のほぼ全域を管轄する三沙市を制定、海洋法執行機関に所属する「海警」など政府公船を使った警備活動が日常的に続けられている。
その上、13年末ごろからは、スプラトリー諸島に点在する7か所の岩礁や満潮時に水没する暗礁で、周囲のサンゴ礁を大規模に破壊し、人工島を建設するといった暴挙に出た。南シナ海の島々に歴史的な権益を主張する中国は、自らも批准する「国連海洋法条約」を無視、もしくは都合よく解釈し、埋め立てて造った人工島を「領土」と主張、南シナ海の80%を占める海空域で主権を行使すると宣言している。
■人工島を「不沈空母」に
南シナ海のスプラトリー諸島にあるファイアリー・クロス礁の衛星写真(9月20日撮影、エアバス・ディフェンス・アンド・スペース/IHSジェーンズ提供)
南シナ海のスプラトリー諸島にあるファイアリー・クロス礁の衛星写真(9月20日撮影、エアバス・ディフェンス・アンド・スペース/IHSジェーンズ提供)
ずばり中国の目的は、南シナ海に不沈空母を造り上げることだ。人民解放軍の孫建国副総参謀長が今年5月、人工島の建設は軍事目的であると明言しているが、ベトナムから奪ったウッディ・アイランドを造成し、2700メートルの滑走路を持つ海空軍基地にしたように、すでに、7か所の人工島のうちファイアリー・クロス礁など3か所で、3000メートル級の滑走路の建設が確認されている。
なぜ不沈空母が必要かと言えば、海を実効支配するには、航空優勢(かつては制空権と呼ばれた)を獲得することが何よりも重要だからだ。
中国は沖縄・南西諸島から台湾、フィリピン、そして南シナ海に至る第1列島線までの海域に米太平洋艦隊を近づけないことを戦略目標としている。虎の子である核ミサイル搭載の原子力潜水艦をはじめとする海軍艦艇が、南シナ海から太平洋へと自由に動き回ることが必要であり、艦艇の活動を支援するためにも、戦闘機や長距離爆撃機、早期警戒機などあらゆる航空機が発着できる長さの滑走路の存在が不可欠なのだ。
国産空母の建造を進めているのもその一環だが、米海軍のように空母を運用できるようになるには、まだまだ海軍としての技術も技量も未熟であり、何より莫大な予算が必要となる。
それよりは岩礁を埋め立てて人工島を造った方が手っ取り早いという計算にほかならない。中国が台湾の統一をあきらめず、沖縄・南西諸島を重要視しているのも、第1列島線をバリケードに見立てて、海空軍の前線基地として活用するためだ。
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