20540 共和党の重鎮、イデオローグは殆どが「トランプが嫌い」   宮崎正広

■「彼は共和党でもなければ保守主義者でもない。彼がなれば共和党は二分される」

ハリウッドの映画スターのなかでもジョージ・クローニー、マット・ダモン、スパイク・リーらは、はっきりと大統領候補としてのドナルド・トランプを批判している。ハリウッドはどちらかといえば、民主党支持者が多い。共和党支持者はシルベスタ・スタローンとか、シュワルツネッガーくらいしかいない。

米国のジャーナリズムは(西欧のメディアもそうだが)七割以上が民主党支持のリベラル派だから、最初から偏光プリズムを通してしかトランプを見ていない。

英国の新聞も同様である。

だからと言って共和党がトランプを支援しているかといえば、党中枢、保守本流はマルコ・ルビオを推し、トランプにはすこぶるひややか、活動的保守の陣営は、茶会をはじめ、ネオコンもテッド・クルーズを推している。

大統領予備選の意外な展開によって、共和党高層部、とくにイデオローグや重鎮等の危機感は、想像以上のものがある。そもそも、共和党のエスタブリシュメントは、ほぼ皆が、「トランプが嫌い」なのだ。

いきなりアウトサイダーの出現はかれらにとって迷惑でもあるらしい。

「彼が正式候補となったら、われわれは独立政党をつくって挑戦するべきだ」と強調しているのは「ネオコン」総帥格だったアービン・クリストフの息子、ウィリアム・クリストフだ。

そもそもトランプには大統領になる「資格などない」と最初から決めつけている。

しかしアービンは元トロツキスト、ネオコンの論客ロボート・ケーガンは夫人がウクライナ政変の裏でポロチェンコ大統領擁立に動いたことがばれて、ワシントンではあまり信用されていない。

つまりネオコンがジュニア・ブッシュ時代に「我が世の春」とばかり、チェイニー副大統領を担いで、中東や南アジアで展開したことは民主党の路線のネガフィルムでしかないからだ。

議会の暴れん坊、1995年から99年まで下院議長の職にあったニュート・キングリッチは「トランプもクルーズも共和党保守本流に対しての不信を象徴するのであり、しかし、かれらがトランプを受け入れるとなると、1964年のゴールドウォーター惨敗につながるか、或いは1980年のレーガン地滑り勝利かの二者択一となる。

忘れたかもしれないが、あの80年選挙で、共和党主流はレーガンを嫌った。でもレーガンが後に(予測に反して)名大統領となるや、彼を嫌ったことなぞ、都合良く忘れている」

つまりニュート・キングリッチはどちらかと言えばトランプ容認派である。

 ▼「あんなのが大統領になったらアメリカはどうなる」とレーガンのときも杞憂された

AEI(アメリカン・エンタプライズ・インスティチュート)の副理事長ダニエレ・プレトカは次のように言う(AEIは共和党系の有力シンクタンク)。

「五年前、トランプは民主党に寄付をしてきた。かれは自由貿易を憎み、移民を憎み、イスラムを憎み、ジョージ・ブッシュの施策に反対してきた。なぜ彼が共和党なのだ?

かれが大統領になれば恐ろしい八年間になるに決まっている。だからもしトランプが正式候補に決まれば、われわれは第三党をつくらなければなるまい」

AEIは次期政権には有力スタッフをおくりこむ構えをみせているが、それはトランプ以外が候補になると言う前提だった。

エリック・カンター元下院院内総務はトランプに対して、さらに激しい。

「トランプは保守主義者でない。かれが言っていることは国家安全保障を脆弱にするばかりか、経済はめちゃくちゃになる。彼の動きにストップさせなければ・・・」

そして共和党はトランプが破壊すると予測するのはアリ・フレイチャー(ブッシュ政権書記のホワイトハウススポークスマン)だ。

「米国は三つに割れるだろう。第一はヒラリーとサンダースが代表するリベラルな集団。第二はクルーズやライアン下院総務に代表される保守のグループ。そして第三がポピュリスト集団だ。後者は確乎たるイデオロギーがまったくなく、指導者の個性と人気だけで動く」。

しかし共和党の重鎮からこれほど嫌われているトランプが、本当に正式候補となりそうな勢いを維持しており、この状況にありながらも保守本流はいまた打つ手もない。共和党はいつのまにか、トランプの勢いに鯨呑(げいどん)されている。

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