[ロンドン 21日 ロイター]キャメロン英首相率いる与党・保守党内での欧州連合(EU)残留または離脱の是非をめぐる深い対立は、キャメロン氏の後任として首相就任を目指す親EU派のジョージ・オズボーン財務相の今後に大きな影響を与える可能性がある。
EUからの離脱の是非を問う国民投票が3カ月後に迫る中、EUに関する議論は保守党を分裂させ、首相の政治的に最も近い人物とされるオズボーン氏に打撃を与えている。
キャメロン首相は2020年の総選挙の前に退任する計画で、オズボーン氏は確実な後継者と目されてきた。いずれもEU残留を支持している。
ただ、保守党内の緊張は高まり、オズボーン財務相が先週発表した社会保障費の削減方針をめぐる対立が党全体の危機に発展。EU「離脱派」の大物政治家のひとりで、保守党党首を務めたこともあるイアン・ダンカンスミス雇用・年金相は18日に辞任した。ただ、政府は21日、削減方針を撤回すると表明した。
表面上は、ダンカンスミス氏は障害者への補助削減方針を理由に辞任したかたちとなっているが、EUをめぐる議論が過熱する中、首相や財務相を動揺させることを狙ったものだと評論家らは受け止めた。
キャメロン首相と「残留派」の意見は、EUに加盟していた方が金融、外交、軍事のすべての面で恩恵を得られるというものだ。一方「離脱派」は、EU加盟が英国の主権を損ねると主張している。
保守党内の政治的な不透明性を受け、通貨ポンドは21日に対米ドルで急落した。
ソシエテ・ジェネラルのストラテジスト、Kit Juckes氏は「英国では向こう3カ月は経済より政治の方が重要になる」と指摘。「ダンカンスミス氏の辞任は、ポンドの見通しに対する政治的リスクを増すことになるだろう」と述べた。
<党内に広がる憎悪>
保守系ウェブサイト「コンサバティブホーム」に寄稿するアンドリュー・ギムソン氏は、EUをめぐる対立が「まったくの憎悪を生み出した。党内に広がるオズボーン氏への憎悪だ」と述べた。「次期党首として保守党がオズボーン氏を選出する可能性は今では非常に低いとみている」とした。
EU懐疑派や、反EUを掲げる英国独立党(UKIP)が選挙で躍進するのを恐れた一部議員からの圧力が強まり、キャメロン首相は国民投票の実施を公約した。
キャメロン首相は党内で対立が深まる中、国民投票に臨まなければならない。議員の間では、結果がどうであれ、保守党が国民投票を乗り切ることができるのかを問う声も上がっている。
ブレグジットはEUを激しく揺さぶり、域内第2位の経済国が連合から去ることを意味する。残留支持派は、EU離脱が英経済の損失につながり、またスコットランド独立の是非を問う投票が再び行われる可能性も高まると警告する。一方、離脱支持派は、英国がEUから外れた方が状況は改善するとしている。
<イメージ克服の必要性>
保守党内の緊張の高まりを受け、キャメロン首相とオズボーン財務相の関係にも注目が集まっている。タイムズ紙の第1面には、社会保障費削減方針の発表を受けて政権内で対立が深まったことについて、首相がオズボーン財務相を責めているとする記事が掲載された。
首相官邸は不和に関する報道を否定し、報道官は首相が財務相に「完全な」信頼を置いていると述べた。
ただ、タイムズ紙のコラムニストで元保守党議員のマシュー・パリス氏は亀裂の示唆について、「首相と財務相の枢軸を弱めることになる」とし、この枢軸は政権の道筋だけでなく、オズボーン氏のトップ就任の可能性にとっても極めて重要だとの考えを示した。
オズボーン氏が持ち直すことができたとしても、同氏は複数の課題に直面している。
まず、2019/20年度までに財政収支を黒字化するという、自らが作った「拘束状態」から抜け出す方法を見つけなければならない。経済成長見通し大幅引き下げの後も、オズボーン氏は目標を堅持している。
財政問題研究会(IFS)のアナリストらは、経済成長見通しが再び下方修正されれば、オズボーン氏は増税もしくは不人気の支出削減を一段と拡大する必要に迫られるとの見解を示した。
またオズボーン氏は、多くの有権者が持つ「一般市民とは距離を置いたエリート層」という自身のイメージを克服する必要もある。
匿名の保守党議員は「オズボーン氏に対する国民の印象が主にネガティブであれば、党として同氏を前面に出すことに積極的でいることは非常に難しいだろう」と述べた。
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