■【野口裕之の軍事情勢】ビン・ラーディンやIS幹部を次々に仕留めた米軍特殊部隊が次に見据える「斬首作戦」のターゲットとは…
さぞ、やつれて、顔も青ざめているかと期待したら、大ハズレ。国内で毎年「ウン万人」規模の餓死者を出しているにもかかわらず、映像越しに観る北朝鮮の金正恩・第1書記(33)は肥え太り、顔は肉まんのように白かった。
なぜ期待したのかは当然、3月7日に始まった米韓合同軍事演習が、32万人もの米韓将兵が参加する過去最大規模であること。
しかも、北朝鮮の核・ミサイル基地に対する先制攻撃も視野に入れる米軍の作戦計画《5015》に基づいているためだ。何よりも、特殊作戦部隊や有人・無人機の精密誘導(ピンポイント)爆撃で、金氏ら首脳部を急襲し、排除する《斬首作戦》が作戦思想に貫かれている。
■金第1書記が想像する運命
しかし、期待はそれだけではない。金氏が3月25日に想像したであろう、自らの運命だ。この日、米国のアシュトン・カーター国防長官(61)は、米軍特殊作戦部隊が潜伏中の《イスラム国=IS》のNO.2を殺害したと、発表したのだ。絵に描いたごとき、見事な斬首作戦といえる。
金氏は他の無法者の、斬首作戦による惨めな最期も思い出しているかもしれぬ。例えば-
《イスラム暴力集団を率いるテロリストのアブ・ムサブ・ザルカウィ(1966~2006年)。2006年、米空軍のF-16戦闘機に精密誘導爆撃され、特殊作戦部隊が身柄を確保した後死亡した》
《米同時多発テロ(2001年9月11日)の首魁にしてテロ・ネットワークのアルカーイダ総司令官ウサマ・ビン・ラーディン(1957?~2011年)。パキスタンのアジトを米海軍特殊作戦部隊SEALsが急襲し、銃撃戦の末、仕留められた》
北朝鮮当局は斬首作戦に敏感に反応した。
「敵がわれわれの尊厳と自主権、生存権を傷付けんと発狂し『斬首作戦』や『体制崩壊』といった最後の賭けに挑戦。もはや傍観できぬ険悪な情勢にエスカレートした」
■「金王朝」終焉への序曲
小欄は専門家とのシミュレーションの結果、金氏を頭目とする北朝鮮は、斬首作戦に震えている-との結論に達した。斬首作戦が成功すると、「金王朝」が3代で終焉を迎える運命は不可避だからだ。説明しよう。
精度はともかく、核弾頭の小型化+ミサイルの延伸を一定程度成功させた北朝鮮が、核ミサイルを実戦配備する悪夢は時間の問題だ。
核武装国家と化せば、米国は北体制崩壊を仕掛け難くなるばかりか、米朝間の直接和平協定締結も、まんざら夢でなくなる。時間を稼ぎたい金指導部にとり、斬首作戦さえ防げれば、あとは核武装国家まっしぐらなのである。
■金第1書記邸の模型で訓練積む特殊部隊
北朝鮮が、非対称戦・斬首作戦への防備を、対称・正規戦への備えより重きを置くのには理由がある。北朝鮮は冷静に米国の足もとを見ている。
それを金氏は熟知している。怪しくなくても、不安だったら側近を死刑に処す。国家に貢献した将軍や古株の重臣でも容赦しない。故に今、北朝鮮内では「忠誠心競争」が頻発しているもようだ。
北朝鮮の対韓国窓口機関・祖国平和統一委員会は3月23日、「朴槿恵逆賊どもをこの地、この空から断固消去する」と口汚く罵った。北朝鮮版「斬首作戦」を逆宣伝した格好だ。朝鮮人民軍の前線に陣取る長距離砲兵部隊も3月26日、金氏ら首脳部に向けた攻撃を想定した米韓合同軍事演習を「太陽(金氏)を遮ろうとした大逆罪」と決めつけ、「公式謝罪」や責任者の「公開処刑」を要求。応じなければ「軍事行動に移る」と恫喝した。
■処刑を恐れ頻発する「忠誠心競争」
韓国統一省報道官は3月28日の記者会見で「北朝鮮は3回目の核実験(2013年)の際にも、韓国政府と朴槿恵・大統領(64)を非難したが、これほど度を超してはいなかった」と総括。「忠誠心競争の一環」と明言した。
何と、悲しい風景か。血の粛清を恐れる軍人や官僚は哀れに違いない。だが、彼らには密告する肉親もいようが、多くは肉親と愛し合っている。その点金氏は、国民も、配下も、血の盟友・中国も、そして異母兄すら信用できず、信ずるのは恐怖政治のみ。
ついに義理の叔父も処刑したが、今後も親類・縁者が流すおびただしい血を見ぬわけにはいくまい。次に論ずる、北朝鮮・特殊作戦部隊の「新任務付加」情報に、金氏の救い難い猜疑心が透ける。
■北特殊部隊の「新任務」
米軍は最大で10万人も抱える北朝鮮の特殊作戦部隊がサイバー攻撃の援護を受け、非武装地帯(DMZ)を越え、重要施設・インフラを破壊して要人を暗殺する奇襲=非対称戦法も警戒する。
が、最近の北朝鮮・特殊作戦部隊は後方で友軍を監視し、敵前逃亡/無断降伏/戦意喪失の将兵を撃ち殺す任務を帯びる。まるで、ナチス武装親衛隊やソ連軍、中国国民党軍に存在した、悪名高き《督戦隊》の様相。
ドイツ総統のアドルフ・ヒトラー(1889~1945年)やソ連の最高指導者ヨシフ・スターリン(1879?~1953年)ら「先輩独裁者」同様の悪魔性を備える証左だろう。
いや、ちょっと違う。ヒトラーやスターリンには極少数ながら「譜代」や、多くの「熱狂的支持者」がいた。若く指導者歴の浅い金氏には、その種の取り巻きは乏しい。結局、自らの運命を、自ら決断せざるを得ない。
金氏は、核開発を放棄したところで「人道に対する罪」は消えず、米韓両国は自分を裁きにかけるのではと疑心暗鬼で、錯乱し思慮分別を失えば、核ミサイルを発射する。
やっぱり、金氏の「首級」を挙げる他、残された手段はないのか…
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