■軍事、経済で優っても国家的競争で欠けているもの
先月21日から1週間、友人のペマ・ギャルポ・桐蔭横浜大学教授に連れられて、インドへ視察旅行に出かけた。「インドから日本と中国を見る」との趣旨で、現地の人々にいろいろと聞き回ったが、特に、インド人の対中国認識を探ってみた。
一概に言えば、インドのエリートたちは、中国に対する適度のライバル意識と警戒心を抱きながら、中国との国家的競争に関しては、むしろ自信満々である。
たとえば、インド政府の元駐外大使で今は国際問題研究機関に勤めるS氏は、ほほ笑みながらこう語る。
「インドと中国の競争は、経済力や軍事力の面だけではない。ソフトパワーの競争が肝心だ。どちらの方が平和国家なのか、どちらの方が政治的に安定しているか。長い目で見れば、世界の人々は分かってくるのではないか」と。
この言葉はすごく印象に残っているが、ちょうど私たちの旅行中に、世界に広がった中国とインド関連の国際ニュースを見てみれば、S氏の言いたいことの意味が分かったような気がする。
たとえば中国に関しては、21日からの1週間、こういったニュースがあった。
まずは21日、インドネシア政府が、違法操業で検挙した中国漁船を中国公船に奪われた一件で、中国政府に抗議した。24日、中国の漁船など約100隻が同日までに、マレーシアの排他的経済水域(EEZ)に侵入したことが報じられた。
いつものように、各国と何らかのトラブルを起こしている中国だが、国内でもさまざまな問題が起きた。
24日、習近平国家主席を批判する公開書簡を掲載した新疆ウイグル自治区の政府系のニュースサイト「無界新聞」が閉鎖されたとのニュースがあった。25日、習主席批判書簡との関連で、米国に滞在する著名な中国人の民主活動家、温雲超氏が、中国に住む家族と連絡が取れなくなっていることが分かった。
そして26日朝、中国の著名な女性人権活動家、倪玉蘭さん夫妻の借家に多数の当局者が押し入り、夫妻を追い出して家具や荷物を路上に運び出し放置した、という衝撃的な出来事もあった。
このように、たった1週間で、中国という国の対外姿勢の横暴さと国内の独裁政治の野蛮さを示すような出来事が相次いで起き、それらがニュースとなって世界中を駆け巡ることとなった。
世界の人々、特にアジアの人々はこれで、このえたいの知れぬ大国に対する不信感と警戒感を増幅させていくしかないのではないか。
中国とは対照的に、同じ21日からの1週間、インドに関するマイナスのニュースが何かあったのかといえば、ほとんど見当たらない。
インドはどこかの国とトラブルを起こして国際社会を騒がせたわけでもなければ、国内で非道な言論弾圧を行うこともない。
24日、米誌が発表した「世界の偉大なリーダー50人」の2016年版で、インドのデリー首都圏政府のケジリワル首相が42位に選出された。それがこの1週間におけるインド関連ニュースのトップであった。
つまり、中国がその「野蛮国家」のイメージを毎日のように世界に拡散させているのに対し、インドはむしろ、アジアの平和国家と民主主義国家としての評判を確実に高めている。だからこそ、今は米国も日本もその他の世界の主要国も競ってインドとの親交を求めているのだ。
いずれかインドの経済的実力が中国に追いついた暁には、アジアの中で各国から信頼され、影響力を持つ大国が、中・印のどっちになるのか、一目瞭然ではないか。それこそは、私がインドという異国から見た、大国中国の「大いなる限界」なのである。
【プロフィル】石平(せき・へい) 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。
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