20759 コラム:米軍を待つ「メガシティ」という新たな戦場   ロイター

■Chad Serena and Colin Clarke

[6日 ロイター]5年近くにわたるシリア内戦で明らかになったのは、混み合った都市環境においてテロリストや反政府勢力に対する諜報、監視、偵察活動を行う際に軍が直面するいくつかの難題だ。

克服不可能ではないにせよ、米国のような最も現代的な軍隊でさえ、こうした課題には悩まされるだろう。農漁村を離れて都市に流入する人の動きは依然として衰えていないからだ。

予測可能な将来において、米国の戦略全体で最優先されるのが、今後もやはり、ロシアや中国といった対等に近い相手に対する抑止や対抗であることはほぼ確実だ。

だが、こうしたよく知られた国家の脅威に対応するだけでなく、米軍には、さまざまな暴力的非国家主体と戦うことが期待されることになるだろう。「暴力的非国家主体」とは、「イスラム国(IS)」やアルカイダなどの確固たる過激派組織や、多国籍犯罪集団MS-13から、それ以外の数限りない無名の民兵、反政府勢力、テロ組織までを含む、包括的な用語だ。

米軍がこうした組織に対抗するためには、人口密度の高い「メガシティ(巨大都市)」の内部や、その周縁部での作戦に従事せざるを得なくなることは、ほぼ確実だ。メガシティとは、複数の都市圏が融合して1000万人を超える人口を抱えているものをいう。

それは難しい問題だ。比較的小規模な市街地であっても、そこでの軍事作戦は本質的に複雑な企てになる。敵対する組織やその作戦は、建物や多数の人々の陰に潜み、隠蔽される。そのため、軍が作戦を成功するために必要な諜報、監視、偵察プラットフォームの効力を低下させてしまうリスクがある。都市が大きく複雑になればなるほど、こうした困難はいっそう際立ってくる。

「メガシティ」という概念は、多くの場合SF作品に見られる未来のディストピアものに由来する。都市のスプロール(無秩序な拡大)現象と膨大な数の人々の集中を描いたのは、1995年の映画「ジャッジ・ドレッド」である。この作品における「メガシティ」は、犯罪と武装したギャングの巣窟であり、多くの社会悪が蔓延している。

では、ラッカに似ているが規模が40倍も大きく、さらに人口密度が高く、そこで作戦を行っている暴力的非国家主体を住民が熱烈に支持しているような都市を想像してみよう。これだけの規模の都市に潜む敵に対抗する難しさは、どれほど強調しても十分ではないだろう。

非正規の武装勢力にとって、特に諜報、監視、偵察能力の点で優位に立つ敵を懸念するのは明らかであり、それが彼らが人口密度の高い都市環境での活動を選ぶ理由の1つにもなっている。

こうした能力は都市での作戦には不可欠な要素だ。この能力によって、現代の軍隊は、戦闘地域を把握し、敵の動きを追跡、最終的には、陸空連動の作戦で最大限の効果を発揮することで、友軍や市民が犠牲になる可能性を低下させる。

だが、人や車、建物の量自体が膨れあがると、計算が複雑になり、困難度合いが増すだけでなく、その種類が変わってくる。
 

廉価で暗号化機能を持つ携帯通信機器が広く使われるようになったことで生じる、サイバー空間における電子的な「濃霧」は、米軍の光学的・電子的な偵察プラットフォームを圧倒し、敵の活動を効果的に把握し、追跡する能力を弱めてしまう。

即席爆弾を密かに製造して仕掛けることは比較的容易であり、より小型化し金額的にも入手しやすいドローンのような無人航空システムの拡散も続いている。これでは、ただでさえ複雑な問題が、さらにいっそう複雑になってしまうだろう。

今後、メガシティで作戦を展開する暴力的非国家主体に対抗するため、米軍には、非常に厳しい状況下においても、情報の全体像を包括的かつ効果的にまとめ上げる能力が求められる。

そのためには最低でも、敵組織による携帯電話の通信、ソーシャルメディアへの投稿、金融取引、作戦上の動きに伴う膨大な電子データを、リアルタイムに近い形で監視し、収集、解釈する能力が必要になるだろう。

そのための課題として、グロズヌイ、サドルシティー、そして今はラッカで明らかになっているように、米軍は、展開する情報網の数を増やし、絶えることのないデータの流れを迅速に把握して、解釈する能力を開発する必要がある。

これに失敗すれば、メガシティでの作戦活動に伴う困難が増大し、そこでの紛争を長引かせ、敵グループに、米軍が監視できない物理的・仮想的な聖域を享受する環境を整えてしまうだろう。

*筆者のChad C. Serenaは政治学者。もう一人のColin P. Clarkeは非営利・無党派のランド・コーポレーションに所属する政治学者。
 

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

 
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