漫画界の大御所的な存在だった杉浦幸雄さんが亡くなったのは二〇〇四年六月。早いもので十二年の歳月が去った。
女性漫画を描かせたら日本一になると言っていた杉浦さんだったが、一日に一度は銀座のバアに行かないと眠れないと言って、よくお供を仰せつかった。
あいにくと私の方は、縄のれんで”ひとり酒”が好み。銀座のお供の後は、浅草でなじみの店に行って、口直しをしていた。
この店は、なじみの常連客にソバの種と味噌を摺り合わせ、そのすり鉢を逆さにして焼いたつまみを出してくれていた。
これが日本酒ととてつもなく合う。味噌を焼くと香ばしい匂いがする。
その話を杉浦さんにしたのだが、あまり興味を示してくれなかった。本当の酒好きの人ではないと気がついた。杉浦漫画の真髄は女性の業といったものを、あますところなく描くことにあった。
このことを最初に指摘したのは曾野綾子さん。やはり作家の眼は正確で怖い。
■曾野綾子さんの杉浦漫画評
女性の業というものを、最初に指摘したのは作家の曾野綾子さんではないかと思う。杉浦漫画を評して「杉浦さんがここ数年間・・・延々と書いてこられた女性は、その無知、狡猾、ハレンチ、欲張り、動物的(人間的にあらず)だらしなさ、無能さ、お人好しの点において、まさに目を覆わしむるものがあった。
この方、ツワモノである。真実を描いてゾーとさせ笑わせる。単なる漫画ではない。人間洞察であり、文明批評である。一九六〇年代の全女性のテキとして、昭和史に名をとどめるに値する」と言っている。
杉浦さんと東北旅行をしたことがある。日本の女性は世界で一番、綺麗だという。色白でしっとりとしたキメの細かい肌は世界のどこにもないと言い切る。トンコ叔母はまさにそのすべてを備えていた信州美人。またカー君自慢が始まったと背中がむず痒くなった。
そのうちに「古事記の漫画を書きたい」と言う。古事記はエロチシムズの世界だという。翌年の年賀状に「古事記の漫画化は、まだ構想の中」という走り書きがあった。それを果たせずに2004年、92歳で亡くなった。あの世で「カー君」を連発しているのだろうが、古事記の漫画化を一生懸命に考えているのだと思っている。
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