20810 官邸直属の「諜報機関」を 作家・佐藤優   産経ニュース

国際情勢が以前にも増して複雑になっている。今年に入って起きた主な出来事だけでも、過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロ、サウジアラビアとイランの国交断絶、北朝鮮による核実験と長距離弾道ミサイルの発射、米国におけるトランプ旋風、「パナマ文書」が暴露されたことによるタックスヘイブンを用いた政治家、富裕層、多国籍企業などの税逃れ疑惑などがある。これらの問題が複雑に絡み合って、現実の国際政治は動いている。

中東史やイスラム事情の専門家で国際関係全般にも通暁している山内昌之明治大学特任教授が、「中東複合危機」というキーワードで情勢分析を行っているが、この概念を拡大して現下の状況を「世界複合危機」と呼んでもいいと思う。

現時点で、半年後の国際情勢をズバリ予測するという人がいたとするならば、その人は嘘つきか、国際情勢をよくわかっていないかのいずれかである。

それは現実に与える変数があまりにも多くなって一義的な分析ができなくなっているからだ。だからといって、分析や予測をあきらめて、場当たり的な対処をすることは国益を毀損(きそん)する。こういうときにこそ、高度な分析力を持った対外インテリジェンス(諜報活動)が必要になる。

さらに対外インテリジェンス業務に必要な技法を習得させる。中央官庁、自衛隊、大学院、総合商社などで対外インテリジェンスに適性のありそうな人材がいれば、中途採用し同様の教育を行う。

公務員試験合格者であれ中途採用者であれ、この職務に適性がないことが明らかになった場合は転職させる。こうすれば10年後に国際基準の対外インテリジェンス・オフィサー集団が生まれる。

ここで重要なのは、対外インテリジェンス機関の業務からテロリスト鎮圧のような実力行使を伴う事項を除くことだ。

テロとの戦いには待ったなしで取り組まなくてはならないので、時間をかけて組織を作っている余裕がない。

さらにそもそも論になるが、対外インテリジェンス機関は、「武器なき戦い」「知恵の戦い」に従事する機関なので、実力行使によって課題を解決するというオプションを外しておかないと、「知恵」が十分に研ぎ澄まされない危険がある。

テロとの戦いについては警察庁の専管事項とすべきだ。外交一元化は、首相官邸で担保されればよい。テロとの戦いに関しては、警察庁が外務省に遠慮せずに自由に活動できる環境を整えるべきだ。

【プロフィル】佐藤優(さとう・まさる)昭和35年、東京都出身。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了。60年に外務省入省。在露日本大使館勤務などを経て、平成10年に国際情報局分析第1課主任分析官。作家として、主な著書に「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社刊)、「国家の自縛」(産経新聞出版刊)などがある。

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