20859 「第三次世界大戦」とは何か フジテレビ特任顧問・山内昌之   産経新聞

2月にロシアのメドベージェフ首相は、ロシアと欧米諸国が「新たな冷戦に陥っている」と発言して注目を浴びた。ドイツで開催された2月13日の国際シンポジウム「第52回ミュンヘン安全保障会議」で、新冷戦の時代が、米ソ冷戦期さながら「第三次世界大戦」に向けて一触即発状態にあると注意を促したのだ。

この発言については、非現実的なフィクションであり、想像や絵空事だという考えもある(アブドゥルラフマーン・アル・ラシード「モスクワと第三次世界大戦のこけおどし」『アッシャルクルアウサト』2月13日)。

しかし、世界大戦という言葉は主要列強の辞書になく、シリアは西欧にとって脇役の戦争であり、ロシアには力を誇示する場所でしかないという考えは、あまりにも第一次世界大戦と第二次世界大戦の例にとらわれすぎている。

世界史で最初の世界大戦は、古代アケメネス朝とギリシャ・ポリス国家連合との前5世紀のペルシャ戦争ともいえるし、やや後にポリス国家間の争いが高じたペロポネソス戦争だったからである。

1914年に第一次世界大戦が起きてまもなく、英国の歴史家アーノルド・ジョセフ・トインビーは、大学の古代史授業でペロポネソス戦争史の作者トゥキディデスを講じていた。そのときトインビーは、自分たちが経験中の戦争が2300年前の古代ギリシャの戦争とそっくりであり、トゥキディデスがすでに経験ずみの歴史であるという霊感にうたれたのである。

現代の中東複合危機で大きな対立軸となっているロシアとトルコとの間にも、19世紀に世界大戦と呼びうる戦争があった。

1821年から29年まで続いたギリシャ独立戦争は、英仏露が一致してギリシャを支援し、オスマン帝国とエジプトのイスラム連合軍をナバリノの海戦で撃破した点で、「19世紀の第一次世界大戦」といえなくもない。

また、1853年から56年までのクリミア戦争は逆に、オスマン帝国と英仏などが手を組んで、セバストポリの戦いでロシア帝国と対決するなど、「19世紀の第二次世界大戦」とも呼ぶべきリアルな性格を帯びていた。

確かに、これらの古典的な世界大戦と「第三次世界大戦」はすこぶる異質な性格をもっている。2015年11月のパリ同時テロに際し、ローマ法王フランシスコも「まとまりのない第三次世界大戦」という表現で、第三次世界大戦に言及した。この意味についてよく考えてみる必要がある。

すでに同年9月、54年ぶりのキューバと米国の国交回復の橋渡し役を果たし、米国訪問を前にキューバを訪れた法王は、頻発している地域紛争を念頭に「第三次世界大戦を迎えているかのような現代世界における和解の必要性」について訴えていた。

今月末、モスクワで国際安全保障会議が開かれる。招待された私としては、ロシアの第三次世界大戦論についてじっくりと話を聞いてみたいと考えている。 フジテレビ特任顧問・山内昌之(やまうち まさゆき)

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