豚が羊に勝った清国と元王朝のお話    古沢襄

■イスラム教徒は豚肉を食べないというが・・

イスラム教徒は豚肉を食べない。その話でジンギス汗が金国(女真族)を攻めた時に「女真族は豚を食う」とモンゴル騎兵が蔑視したことを思い出した。

遊牧民のモンゴルは羊を食うが、豚を飼育する習慣がない。一方、女真族(熟女真と生女真)は農耕を主として定住性を持っていたから豚を飼育し食用に供していた。

1115年に熟女真と生女真を統一した阿骨打(あこつだ=生女真)によって金王朝が建国されたのだが、金は、遼、北宋を滅ぼし中国の北半分を支配する大国となった。

ジンギス汗にとって東方の金こそが最大の敵だったから「女真族は豚を食う」と蔑視してモンゴル騎兵に檄を飛ばしたのであろう。

ところが女真族・・いまでは満州族といっていいが、中国で最強の戦闘部族である。朝鮮戦争で林彪指揮下の第四軍は満州族主体で米韓軍と戦い、いまでも首都北京の防衛軍は満州族によって護られている。

1211年、ジンギス汗の金攻略戦を開始したが、豚を食う女真族の激しい抵抗に遭って攻略戦の最中の1227年に陣中で没した。

この金王朝がモンゴル騎兵によって滅亡したのは1234年。モンゴルと南宋の連合軍によって挟撃された中原の女真族の大半が死滅したと伝えられ、残った女真族はモンゴルに服属している。

羊が豚に勝ったかにみえるが、モンゴル・元の衰退で後金が復活して、これがモンゴルを従え、万里の長城を越えて明王朝を滅ぼし、満州族の清王朝を造ったのだから、豚が羊に最後は勝ったと言っていいのではないか。

イスラム教徒が豚を忌避するのは、聖典であるコーランが「豚は汚れた動物なので食べてはいけない」と定めているからだという説があるが、豚忌避の理由は定かではない。専門家の間でも諸説があって分かれている。

中東、北アフリカ、中央アジアなどでは、土地が乾燥した地域なため牧草は育っても穀物が育ちにくいので、穀物を食べてしまう豚を嫌ったという説の方が説得力があると私は思っている。

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