インドガンと鳥インフルエンザ 古沢襄

シベリアのバイカル湖を訪れて印象的だったのは、渡り鳥の王者といわれるインドガンがこの地で繁殖し、厳寒を迎える前に若鳥を伴って、一斉にインド北部を目指して飛び立つ壮大な風景であった。

その飛行経路はモンゴルのウブス湖、中国の青海湖で羽を休め、中国とインドの国境にある昆崙山脈を越えて冬でも温暖なインドを目指して飛んでいく。青海湖は昆崙山脈東端に位置しているが、遙かタクラマカン砂漠を望みながら渡りをする姿を写真に納めたいと思いながら10年の歳月が経った。

数年前のことになるが、中国の青海湖でインドガンが折り重なって斃死していたというニュースがあった。調べたら死因は鳥インフルエンザ。春のことである。インド北部で鳥インフルエンザが発生し、病鳥が青海湖で折り重なって死んでいた。

その時に鳥インフルエンザの恐ろしさを初めて知った。また渡り鳥によって持ち込まれた鳥インフルエンザが、カラスやニワトリに伝播して広がるというメカニズムも知った。

事実、インドガンから伝播したと思われるニワトリやアヒルの鳥インフルエンザが青海湖周辺の農村地帯で発生している。WHOの警告にもかかわらず中国の対応は隠蔽の色が濃かった。風評被害でニワトリやアヒルが売れなくなり、農村が打撃を受けることを憂慮したのであろう。

しかし、鳥インフルエンザが鳥から鳥に感染するだけでなく、鳥からヒトに感染し、やがてはヒトからヒトに感染して、毒性の強いウイルスが生まれれば、中世のペスト流行の様な事態になりかねないと分かり、中国当局も本格的な対策に乗り出している。

同じ様な事態はモンゴルのウブス湖でもあったと思うのだが、この方の情報はなかった。あるいは鳥インフルエンザに冒されたインドガンは青海湖でほとんどが死滅したのかもしれない。バイカル湖でも鳥インフルエンザに冒されたインドガンの話はなかった。

日本にはインドガンは渡ってこない。だが日本でもニワトリの鳥インフルエンザが発生している。鳥インフルエンザに冒されたカラスが鶏舎に入って感染を広げた説があるが定かではない。

豚インフルエンザと鳥インフルエンザが重なって発生しても、ヒトからヒトに感染する悪性のウイルスが生まれないかぎり怖れることはないと思うのだが、甘くみているととんでもないことになる。

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