日中友好論者が先を争って日露友好論者に看板を塗り替えようとしていると言ったら言い過ぎだろうか。田中角栄の全盛時代に福田赳夫は日ソに目を向けていた。日中に対抗するするために日ソというわけで、シベリア開発に関心を持つ財界人と頻繁に勉強会を持っていた。
それを横目に「ソ連の石油なんて硫黄分が多くて使いものにならない。中国石油だよ、これからは・・・」と田中派と嘯く。福田勉強会では「硫黄分を取り除く精製技術は、日本が先進国だ」。なんとも幼稚なエネルギー論が闘わされていた。しかし中東石油の依存度が90%を超える日本の資源外交は、いずれ多角的な石油輸入先を求める必要があるという点では、田中派も福田派も一致していた。
もう少し論を進めると、田中派は経済を拡大することによって日本は世界の一流国にすると目標を定めていた。場合によっては日米経済戦争も辞さない。中国を味方に引き込み、アジアで日中が提携して”大アジア構想”なるものまで語られた。
この当時、昔は共産党員だった宇都宮徳馬という自民党左派がいた。松村謙三とともに日中に架け橋になった政治家だが、父親は陸軍大将。東京陸軍幼年学校(24期)に入学するが中退し、旧制水戸高等学校から京都帝国大学経済学部に入学して、マルクス主義経済学に染まり京大も退学。
治安維持法違反で逮捕され、投獄されて獄中で転向を表明、釈放されている。それがマルクス主義経済学を応用して、株式相場で満州事変に関係した軍需企業の株式に投資し、大金を得たというから面白い。昔の自民党には、こういう風雲児がいたものである。
その宇都宮徳馬が「これからの世界は、日中の黄色人種と米ソの白人の対立構造が生まれる」と言っていた。根っからの日中友好論者。
福田赳夫は「冗談じゃない。中国はひとりでアジアの覇権を握ろうとする。それに対抗するにはソ連カードを使うしかない」と言っていた。こちらは日・米・ソによる中国封じ込め論者。
いまの安倍政権は、福田赳夫の路線上にある。日本外交は米中と等距離を保つ三角形論を唱える小沢一郎が角栄路線であるのは言うまでもない。こういう日本の歴史的な対立構造を考えると、日中友好論者が先を争って日露友好論者に看板を塗り替えというのは、あまりにも時代迎合的だと言わざるを得ない。
日本が米露との関係強化に動くと、中国はロシアとの関係強化に動くであろう。三月には習近平が訪ロして、プーチン大統領との首脳会談を打診している。中国の対日政策も変化するかもしれない。
日・米・露による中国封じ込め網には、中国はどこかに風穴を開けねばならない。それは軍事対立ではなく、まさに外交の季節の到来になる。