習近平は清朝の「乾隆帝」と英国誌  宮崎正弘

習近平を「乾隆帝」になぞらえる英誌『エコノミスト』。英国が誇る聡明リベラル媒体も北京に阿ると分析が鈍るのか?

英誌『エコノミスト』(2013年5月4日号)の表紙は、乾隆帝の豪華な服装を着て右手にシャンペン、左手に子供のピロピロ笛(吹き戻し)を持つ習近平皇帝。

タイトルがふるっている。「共産党を1973年のそれに(つまり乾隆帝の全盛期)」。英国はマッカートニーが紫禁城を訪問したとき、三度の叩頭を要求されても応じなかった。

しかし英国が開国を迫っても乾隆帝は「我が国には満ち足りた物資があり、貴国から輸入するほどのモノは何一つない」と傲然と言い放った。

乾隆帝は清の第六代皇帝で廟号は高宗、祖父が名君として歴史に輝く康煕帝である。

乾隆帝は十回の外征を行って周辺諸国を侵略したうえで軍事占領し、これに衝撃を受けたビルマ、ベトナム、ラオス、タイが清への朝貢を始めた。
 
英国が受けた屈辱的怨念が一世紀を経ずしてアヘン戦争に結ばれ、結局、清帝国は崩壊する。宮殿からやがて宦官が去り、戊戌政変は失敗し、裏寂れて薄もやの中、大帝国は自壊した。

かつて清朝の名君と言われた康煕帝は、山海関を開いて満州族の軍を導き北京入城を誘導してくれた呉三桂(つまり明にとっての裏切り者。やがて清朝も裏切り、北京を窺う)の西南からの反逆に断固として起ち上がり北京を防衛した。

しかし清の末期における自壊現象に西太后はなす術もなかった。中国共産党は、絶世を極めて繁栄と経済成長に邁進し、世界の帝国になるという未来図を提示している。

だが、中国共産党の唱える「中国の夢」はバブルのように消える運命ではないのか。すでに不良債権の爆発に習近平自身が、政治局常務委員会で警告を発しているのである。

▼「愛国主義による中華民族の復興は中国の夢だ」

習近平が国家主席就任後に語り出したのは次のフレーズの繰り返しだった。「愛国主義による中華民族の復興は中国の夢だ」。

だが、改めるまでもないが「中華民族」は現実には存在しない抽象概念である。存在しない概念で国民を糾合し、軍隊だけを優遇すれば、いずれ共産党王朝の自壊は早まるだろう。

軍事力を背景に諸国を睥睨した清帝国は中国歴史上、最大の版図を広げたことは事実である。

だが同時に乾隆帝は文化方面にも力を注ぎ、『四庫全書』を編纂させ、ソフトパワーにも力を入れて世界に冠たる帝国を築いた。

経済と軍事の隆盛を極める習近平は現代の乾隆帝を目指しているとエコノミストは分析して見せたが、ソフトパワーが決定的に不足している。

それゆえ『エコノミスト』の結論を読んでいくと、「こうした中国は二つの危険性を内包する。第一は排外的ナショナリズム。第二が『軍事強国』を目指すと公言していること」であり、清帝国の全盛期より、ソ連の末期に似ていることを暗示している。

ぴかぴかのネオン輝く繁栄は、突如停電となり漆黒の闇に戻る危険性は日々高まっている。

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