黄金の道・秀衡街道  古沢襄

東北旅行をする度に、幻の秀衡街道のことが、よく話題となった。平安時代末期に東北で産出した”金”を京都に運んで、京都の物品を奥州に持ち込む商いで豪商となった「金売・吉次」のことは、よく知られている。

京の鞍馬であった牛若丸(源義経)が、奥州・藤原秀衡を頼って平泉に下る案内役をしたのも金売・吉次であった。本名は吉次信高、吉次の墓は栃木県下都賀郡壬生町上稲葉にある。

東北の金は、東山町(現在の一関市)、気仙など「北上山系」からの産金が三分の二、鷲の巣金山など湯田及び秋田方面の「奥羽山系」の産金が三分の一と推定されている。金といえば砂金だったが、需要が高まるにつれて、金山での採掘が多くなっている。

その中で「鷲之巣金山(わしのすきんざん)」が、いまでも「たぬき掘り」、「吉次掘り」と称される掘り跡が見られ、平泉時代とのつながりをしのばせる鉱山跡として現存している。

鷲の巣金山は、奥羽山脈の脊梁部に位置する西和賀町湯田地域のほぼ中央部に位置し、海抜240mから500m山岳地帯の鷲之巣(わしのす)川入口付近にある。

採掘した金は竹に穴をあけて木栓をし、馬の背に乗せて運んだというから、簡単な精錬技術もあったのだろう。しかし、北上山系も奥羽山系も急峻な山道であり、北上川や和賀川を避けて、回り道をしたから難路だったのは間違いない。当然のことながら難所で人馬が事故に見舞われ、その御霊を祀る石神様も残っている。

さて、これらの地域で産出した金を平泉まで、どの様なルートで運んだのであろうか。この道はいまでは人の背より高い草や樹木に覆われていて、探し当てるのは至難の技だった。

「沢内風土記」・・・宝暦十二年(1762)に宮古代官所から沢内代官所に左遷された高橋子績が、この地の地誌・風俗・習慣について詳しく記述した第一級の資料を遺している。この中に湯田・沢内地区から羽州(秋田)に行く道は、四通りあると記していた。

①真昼岳の傍の兎平を通って千畑に通じる道
②下前から笹峠を越えて六郷に通じる道
③左草から萱峠を越えて横手に通じる道
④巣郷から黒沢に通じる道は、歩きやすく、かつてこれを秀衡街道と称す

つまり二百五十年前に巣郷には秀衡街道があったと記していた。だが、高橋子績は秀衡街道の西の秋田への道は書き記したが、東の平泉への道には触れていない。最大の難所である仙人峠には行けなかったのであろう。

また「邦内郷村誌」には、東の越中畑には南部領の関所、西の小松川に佐竹領の関所があるが、これが奥羽道で大変険しく通行は容易でないとし、ここから南に「巣郷」があって、古い往来道で「秀衡街道」というとある。

この巣郷は岩手・秋田両県にまたがる山間の場所で巣郷温泉がある。水源と耕地が限られていたので、昔は四戸の農家しかなかった。大菅谷(おおすがや)の旧称があるが、「続日本紀」に蝦夷が陸奥・出羽を頻繁に往来した大菅谷道が記述されているので、軍事的な要衝と目されている。

平成七年にこの幻の秀衡街道を探しあてようと湯田町(現在の西和賀町)で高橋文治氏が中心となって四十人の会員で「秀衡街道探査会」が作られた。平成十四年に北上市仙人の久那斗神社から巣郷まで二十五キロの街道を探しあてている。東への道を探しあてれば、清衡が整備した福島白河から青森津軽外ヶ浜に至る基幹道によって平泉に行くことが出来る。北上山系で発掘した金も西から同様な道筋を通ったのであろう。

探査に当たって、次の三点がポイントとなった。

①橋がない時代だったから、川を渡らない回り道をした
②湿地帯を避け、雨が降っても、水はけが良い高いところの道にした
③安全を考えて集落を結ぶ道を選んだ

とはいえ現在まで何百年も使われていない古道を探すのだから、史料や古老に言い伝えを丹念に聞く作業が大変だったという。「秀衡街道探査会」は高橋文治氏から高橋信一氏に引き継がれ、このお二人が亡くなった後は前西和賀副町長の高橋定信氏にバトン・タッチされた。この一文は定信氏から頂戴した「黄金の道・秀衡街道」に依拠している。

追記 鷲ノ巣金山は私の家系にも関係がある。祖母は沢内村の初代村長だった為田文太郎の次女。為田家は文太郎の父親・安太が鷲ノ巣金山の経営にタッチし、文太郎も引き継いでいる。これは和賀新聞や和賀郡史にも記載されている。

文太郎は万延元年、岩手県和賀郡沢内村の富農に生まれ、明治22年初代沢内村長に選ばれた。その後県議に転進するが、政治に見切りをつけ、父親の安太の手がけていた鷲ノ巣金山の経営に手腕を発揮する。

「売り上額、月々四~五〇〇円の小山を三年余りで、日本有数の金山、月産三貫目以上の鉱山に育てしまった」(和賀新聞)。明治39年には、為田は父安太から鷲ノ巣金山の経営権を継承する。いわば羽振りのよい時に、大黒鉱山の話が持ち込まれたのであった(和賀郡史)。

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