世界で最も高性能な戦闘機、原子力潜水艦、攻撃ヘリコプター、装甲車などを保有しているフランス軍がアフリカでの作戦に苦戦している・・・米ウォール・ストリート・ジャーナルの社説が面白い。
フランスが昨年計上した520億ドル(約4.7兆円)もの防衛費は、世界でも有数の総軍事支出額となる。これは韓国、トルコ、イスラエルといった勢いのあるミドルパワーの防衛費の実に2倍以上だという。
それなのにフランスは後方支援などあらゆる面での力不足を露呈して、1個旅団をわずか5時間の飛行距離にある国へ派遣させることさえ、フランス軍単独では不可能だということが判明した。
これについて米ウォール・ストリート・ジャーナルは、<<軍隊が必要としている装備は戦闘機のような派手なものばかりではない。フランス政府が長年にわたって怠ってきたのは地味な装備の更新なのだ>>と指摘する。
今やフランス軍の歩兵部隊は、4年前に計画された数の半分の兵站輸送車両での派遣を余儀なくされている。フランスの外交官たちはマリ軍事介入の最初の週に米国、カナダ、英国と交渉し、米国製の大型長距離輸送機C-17で兵士と装備をマリへ運んでもらおうとした。
フランス軍の人件費の高さは軍事予算の50%に達している。さらには退役軍人に軍事予算の約20%に相当する76億ユーロ(約9270億円)を費やしている。その結果、フランス軍はますます空洞化してしまった。
フランス軍がかかえる構造的な欠陥は、わが自衛隊にも当て嵌まらないか?戦前の日本軍も前方展開する兵器・要員には重点を置いたが、それを支える後方支援に手を抜いた構造的な欠陥を持っていた。
<フランス軍は世界で最も高性能な戦闘機、原子力潜水艦、攻撃ヘリコプター、装甲車などを保有している。フランスが昨年計上した520億ドル(約4.7兆円)もの防衛費は、世界でも有数の総軍事支出額となる。これは韓国、トルコ、イスラエルといった勢いのあるミドルパワーの防衛費の実に2倍以上である。
にもかかわらず、称賛に値するマリでのテロリストとの戦いにおいて、フランス政府は後方支援、軍事支援を同盟国にすがっており、燃料補給から監視、大型貨物輸送まで、あらゆる面での力不足を露呈した。1個旅団をわずか5時間の飛行距離にある国へ派遣させることさえ、フランス軍単独では不可能だということが判明したのである。どうしてこんなことになってしまったのか。
現在の欧州諸国の軍事事情、そしておそらく米軍の将来についても何らかのことを教えてくれるこの疑問にはそれなりの価値がありそうだ。
まず人件費を考えてみよう。米国では国防総省が軍事予算およそ6000億ドル中から1070億ドルを給与に、約530億ドルを健康保険に、さらに500億ドルを退職費用に充て、軍事計画立案者をやきもきさせている。ところがフランスの国防省は、軍事予算のなんと50%を人件費に費やしているのだ。
その背景には1996年の徴兵制度撤廃があり、フランスでは兵力が縮小したが、プロ化も進んだ。しかし問題の大部分を占めるのは、国防省が退役軍人に軍事予算の約20%に相当する76億ユーロ(約9270億円)を費やし、実質的に戦闘のための予算を奪っていることである。
その結果、フランス軍はますます空洞化してしまった。登録書類上は男女合わせて23万人の兵力を有するが、6カ月の事前通知で派遣可能な兵士はわずか3万人と推定されている。
フランス軍が近代兵器に予算を割いていないわけではない。2009年以降で2014年までの計画在庫が上方修正されたものの中にダッソー社のツインエンジン戦闘機ラファールがある。フランス軍はすでに70機以上を保有しているが、さらに160機近くを調達する予定だ。
しかし軍隊が必要としている装備は戦闘機のような派手なものばかりではない。フランス政府が長年にわたって怠ってきたのは地味な装備の更新なのだ。今やフランス軍の歩兵部隊は、4年前に計画された数の半分の兵站輸送車両での派遣を余儀なくされている。フランスの外交官たちはマリ軍事介入の最初の週に米国、カナダ、英国と交渉し、米国製の大型長距離輸送機C-17で兵士と装備をマリへ運んでもらおうとした。
フランス軍は10年近くにわたりエアバス・ミリタリー社のA400-M輸送機を50機ほど発注しているが、C-17は保有していない。A400-M(愛称はアトラス)は欧州諸国による共同開発プロジェクトだったが、その支払い能力不足のせいで引き渡しの遅延が繰り返されている。A400-Mの最大積載量はC-17の半分ほどでしかない。
フランス軍は保有する少数のKC-135を補完する空中給油・輸送機の調達も目指している。ラファールが空中補給なしでマリ北部地帯を攻撃するのは不可能である。これに関して米国は協力に同意していない。フランス政府はやはり、旧型機に取って代わるエアバス330の新品14機も発注したが、その購入は2010年に延期されてしまった。
給油は2010年に締結された「英仏軍事協力条約」でカバーされている多くの分野の1つである。この条約の目的は、必要が生じたときに両国が互いの大きくなりつつある軍事力の穴を補い合うことにあった。
ところが今回、アフリカで必要が生じると、英国防省の高官は派遣できる空中空輸機は残っていないと述べた。アフガニスタンで任務に就いているか、領有権をめぐってアルゼンチンとの対立が再燃しているフォークランドへの出発に備えて待機しているかのどちらかだというのだ。
残念なことだが、米オバマ政権に最低限の協力の意思しかない以上、欧州諸国の政策立案者たちは将来の防衛費の対国内総生産(GDP)比について考え直さざるを得ないだろう。
一方で、フランスはサヘル地域をイスラム系反政府勢力から守るために支援を必要としている。フランス政府による優先順位を誤った軍事支出は、マリの戦闘においてフランス軍が単独で勝利を収める能力を低下させたが、フランスもその同盟国もイスラム系反政府勢力にサヘル地域を制圧させるわけにはいかないのである。(ウォール・ストリート・ジャーナル)>