「シベリア・タイシェットと太平洋パイプライン」がトップ記事で読まれている。最近の太平洋パイプラインのことを記事化したものではない。過去形の記事が何故、読者の関心を呼んでいるのだろうか。
これについては昨年暮れに日本経済新聞が「東シベリア原油パイプラインが全線で稼働」で報じていた。プーチン大統領はアジアへの原油輸出を拡大すると大号令をかけたが、工事が完了しただけで輸出目的の達成はこれからである。
少し話は飛躍するが、田中角栄時代に「ロシア原油は硫黄分が多くて使い物にならない。これからは低硫黄で品質が高い中国原油の時代だ」と角栄派閥が触れ回っていた。多くの新聞やテレビが、この説を信じていた。
十年前にシベリアのタイシェットを訪れて、ロシア東シベリアの原油が低硫黄で品質が高いとアメリカが評価しているのを知った。角栄派閥の風評は大慶油田の開発で日本に原油の売り込みを図ろうとしていた中国側の謀略だった。その中国が石油輸出国から石油入国になったら、ロシア原油は低硫黄で品質が高いと百八十度違うことを臆面もなく言い出している。
現状はどうか。化学業界が昨年暮れに「東シベリア太平洋石油パイプラインが全線で稼働」の情報を出している。
<東シベリア産の原油を極東に輸送する東シベリア太平洋石油パイプライン(ESPO)は全長4740キロメートル。
東シベリアのタイシェトと中間地点のスコヴォロディノをつなぐ区間が先に完成したが、ここから中国の大慶を結ぶパイプラインが2009年末に完成し、2011年1月1日から、同パイプラインを通して年間1500万トンの原油がロシアから中国に供給されている。
中国は2009年2月、ロシアとの間で政府間協定を結んだ。
中国開発銀行がロシア国営石油会社 Rosneft に150億ドル、東シベリア太平洋パイプラインを運営するTransneftに100億ドルを低利で融資する見返りに、Rosneft は2011年から20年間、毎年15百万トンの原油の供給を行い、Transneftはパイプラインを中国に延長する。
CNPCは2009年7月、ロシアからの原油処理のため、遼陽市の製油所の拡大(11%) を開始したと発表した。2009/7/22 CNPC、ロシアからの原油用に遼陽市の製油所を拡大
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2010年10月、ロシアのイルクーツク石油と共同で探鉱調査を行っているイルクーツク州北部のセベロ・モグジンスキー(Severo-Mogdinsky) 鉱区で可採埋蔵量が1億1000万バレルと想定される大規模油田の試掘に成功したと発表した。
■2010/10/25 石油天然ガス・金属鉱物資源機構、東シベリアで大規模油田を確認
JOGMECは2012年6月、東シベリアの油田を、ガスプロム・ネフチと共同開発すると発表した。
イルクーツク州北部に位置するイグニャリンスキー鉱区で、埋蔵量1億バレル級の中規模油田。2013年末までに地質調査や試掘などを行い、2010年代後半から日量数万バレルの生産を見込んでいる。将来的に日本企業が49%の権益を獲得する。
同油田から採掘した原油は、東シベリア太平洋石油パイプラインでコズミノまで運び、日本に輸送する。>
だが、読んで分かるようにプーチン戦略である対日原油輸出はまだ「絵に描いた餅」でしかない。具体化が進んでいるのは、中国に対するロシア原油の供給増。日本の話はあくまで将来予測でしかない。ロシア原油をめぐる日本と中国の綱引きは、どうみても積極的な中国に分がある。