「対馬国志(3巻)」の受賞 馬場伯明

長崎新聞(2010/9/3)に嬉しい記事があった。抜粋(抄録)する。《第13回日本自費出版文化賞の最終選考会で、大賞に対馬市厳原町の郷土史家、永留久恵さん(89)の「対馬国志」(全3巻)が選ばれた。同賞は自費出版の普及を目的に日本グラフィックサービス工業会が主催する。

地域文化、文芸、評論等6部門641点の応募があり64点が最終選考に残った。「対馬国志」は「記述内容と質、文章力すべてにおいて大賞にふさわしい」と6人の選考委員が満場一致で決定。10/30に都内で授賞式を開く。

「対馬国志」は永留さんが研究の集大成として10年以上かけ書き上げた。昨年夏に出版。対馬の原始時代から現代まで。大陸との交流やアジアの情勢など幅広い視点で記述されている。A5判全3冊。約1200頁の大作。9400円。問い合わせは「対馬国志」刊行委員会(電話0920-52-5230)。》

私はさっそく購入した。【第1巻】原始・古代編、【第2巻】中世・近世編、【第3巻】近代・現代編の3巻の構成である。著者の永留久恵(ながどめひさえ・89歳)氏の略歴を著書の巻末から紹介する。

《1920年:対馬市上県町生まれ 1940年:長崎県師範学校卒業(小中学校教員・校長)1941年:兵役で海軍に徴兵(ハワイ攻撃、南太平洋作戦、インド洋作戦、ミッドウェー沖海戦等に従軍)。1948年以降東亜考古学会の対馬調査に関係、以来対馬の文化史学を研究。

1976年:学校を退職。1978年:対馬歴史民族資料館研究員。1990年:対馬「芳州会」を結成。日韓友好文化交流に活動。1996年:西日本文化賞受賞》とある。そして、今回の受賞だ。多くの著書もある。

私は、まず、第3巻の「近代・現代編」から読み進んだ。過去の歴史の研究といっても、それが現代にとってどう繋がるのか、その視点が明確でなければ、単なる「衒学」に終ってしまう。

その意味で、永留氏が果せたという次の2つの「思い」は貴重なものだ。つまり、日韓の歴史資料だけでなく、文化誌的資料を立項することに務め「思いを果せた」と第3巻の「あとがき」で2つ書いている。

第1に、交隣関係が良好だった時代には文化的価値の高い遺産を伝えているが、関係のよくなかった時代には、よい文化財が乏しいことを証明したこと。

第2に、対馬が本来倭人の領域(日本の領土)であったことは「魏志倭人伝」以来明らかであるが、後世「対馬為島本是我国之地」とした「朝鮮国の俗論」が根拠のない誤解であることを、手間をかけて説明したこと。

第1巻。「ヤマトとカラの間で生きた対馬」を記述している。古事記の記述に一貫している「津島」という表記と「対馬」との「ツシマ」を巡る論争は、学問的な論争と離れても面白いものだ。

また、あの有名な魏士倭人伝の検証をはじめ、豊富な出土品や文化遺産などにより対馬の歴史が解き明かされる。まさに、国境の島から日本古代史の故郷(ふるさと)が甦るのである。

第2巻。元寇・倭寇を経て交隣外交を開いた対馬の歴史が詳述される。戦国時代の宗氏の役割、朝鮮通信使、鎖国時代の朝鮮貿易など、興味深々たる歴史の展開である。

今、日経新聞では「韃靼の馬」(辻原登)が連載中だ。好評。すでに313回の長編である。文武両道にすぐれた若い対馬藩士が活躍する。

朝鮮通信使らとの折衝やその裏面があきらかになっていく。さあ、阿比留克人(主人公:あびるかつんど)どうする。今後の彼の運命は・・・。

ところで、一方、今の対馬には暗く悪い話もある。近時、韓国資本が対馬の土地や建物を買い漁る。また、韓国の観光客(の一部)は釣りツアーや街中の観光でマナーがよくない、などの話も散見される。

しかし、財部能成・対馬市長と対馬市議会は、小事ににとらわれず、高い志を保ち、粘り強く、断固たる指導力を発揮して、解決してほしい。

日韓(北朝鮮)両国の政治・経済および歴史・文化・観光などの交隣促進は積極的に進めるべきである。だが、同時に、最も重要なことは、わが国の基本的な立場を毅然と貫く決意と実行を忘れてはならない。

永留氏は受賞後「高く評価していただき大変うれしい。これを機に、対馬の歴史への関心が高まってほしい。受賞を今後の執筆活動の励みにしたい」と喜びを語ったそうだ。

また、本書の上梓後、財部市長が永留氏に「(今回の)発刊が最後になりますか」と尋ねたところ「まだまだ書きたいものがあります。今、資料を整理しているところです」と即座の回答らしい。

老いてなお盛んである。(お会いしたことはないが)永留氏の率寿を寿ぎ、ご健康とさらなるご活躍を心から祈念する。

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