3128 「5月解散」説の背景を考える 花岡信昭

「西松献金」事件によって、政局の構図が一変し、解散・総選挙をめぐる攻防もこれまでとは様変わりした。民主党から早期解散を求める声はすっかり消え、麻生首相が解散時期の主導権を握ったといっていい。
今後の焦点は、09年度の第1次補正予算だ。麻生首相は4月中旬までに追加経済対策をまとめるよう政府・与党幹部に指示、これを踏まえて大型の補正予算を編成する意向を表明した。
補正予算は20-30兆円規模となる見通しともいわれる。財源は、財政投融資特別会計の積立金、建設国債、予備費の活用などを原則とするものの、赤字国債発行も辞さないとしている。100年に1度といわれる経済危機に対応して、財政出動の必要性を鮮明に打ち出したものだ。新年度当初からの補正予算論議というのは、かつてない事態である。
追加経済対策、補正予算の狙いについて、麻生首相は(1)景気の底割れ防止(2)雇用の確保と国民の痛みの軽減(3)未来の成長力の強化-の3点をあげている。まさに、そのまま総選挙のキャッチフレーズになるテーマ設定といっていい。
追加経済対策、補正予算の是非論については、ここでは触れない。それは財政経済の専門家におまかせするとして、政治展開に占める意味合いについて考えてみたい。
*解散の主導権を回復した麻生首相
新年度の補正予算は麻生首相にとっては、これまでの政治攻防の中では、解散先送りの材料としての位置づけだった。それが、補正予算とからめて解散時期を自在に設定できるという性格のものに変容したわけだ。
この通常国会では08年度第二次補正と09年度予算という二つの予算を仕上げ、年度内成立を果たした。これに加えて、さらにもう一つ、大型の補正予算を編成しようというものだ。
政界の常識からいえば、ときの政権は予算の年度内成立に総力をあげ、これが難しい場合は、野党との間で解散の約束をして予算成立を図るという「話し合い解散」まで取りざたされたものだ。
そういう状況を考えれば、麻生政権は傍目で見るよりもはるかに「安定・強力」政権に変貌した、という言い方もできる。
通常国会で予算を3本成立させるとなれば、前例のないことではないか。内閣支持率は回復基調にあるといっても、まだ20%台だが、それでも政局の主導権を握りつつあるように見えるのだから、政治の流れというのは予測不能の世界だ。
そこで、今後、どういう展開が想定されるか。
4月中旬に経済対策をまとめるというのだから、補正予算の国会提出は5月連休明けだろう。衆院審議を経て参院送付が5月中旬以降とみて、まず間違いあるまい。
今国会の会期は6月3日までである。衆院通過の時点で、大幅な会期延長を選択するかどうかということになる。
麻生首相はG20(金融サミット)出発前の3月31日、記者会見で「60日間を要してでもやるのかどうかはそのときの判断だ」といった趣旨の発言をした。
ここがポイントだ。民主党は補正予算にどう対応するか。
*民主党の補正予算への対応がポイントに
民主党は09年度予算の年度内成立に「事実上」協力したかたちとなった。予算の成立によって早期解散を引き出そうという戦略だったのだが、「西松献金」事件の摘発でそれが根底から覆された。
今度も補正予算の早期成立に、民主党がやはり「事実上」協力するのであれば、会期内に野党多数の参院で否決、衆院で再可決ということになる。参院で徹底抗戦となれば、麻生首相としては、参院で採決が引き延ばされても60日後に衆院再可決が可能になる規定を使って、7月末ぐらいまでの大幅延長を選択することもできる。
その一方で、大型景気対策に野党が反対していることをアピールし、解散に打って出ることも可能になる。5月解散説が出回っているのは、そういうシナリオによる。「解散カード」を使って、参院での早期採決を迫るというものだが、「カード」が本物になるという展開は十分にあり得る。
その時点での政治情勢は、どういうことになっているか。ここは麻生首相としても難しい判断ではある。内閣支持率が回復基調のまま推移し、一方で民主党内のごたごたが続いていれば、解散の好機ということにはなる。大型補正は選挙戦の大きな武器になるだろう。
さらに、その時点では、第2次補正論議も出てくる。これは減税が主体となる見込みだ。「麻生政権が続けば、次の景気対策は減税」というのは選挙向けにはもってこいのテーマとなる。
となると、民主党の小沢一郎代表の出方が、麻生首相のこうした戦略を左右することになる。「西松献金」事件で公設第1秘書が政治資金規正法違反容疑で起訴されるという事態を招いたが、小沢氏が代表続投にこだわったのは、この時点での代表辞任は政治生命の終焉を意味しかねないと判断したからだ。
百戦錬磨の小沢氏のことだから、自身の進退を客観視する術は十分に心得ていると見る。記者会見で「涙」を流したといった情緒的な側面にとらわれると、読み間違えることになりかねない。
かつてならば、こういうケースでは、即刻、辞任を表明していたはずだ。そのほうが後に政治力を残せるからである。「大連立」騒動で代表辞任を表明し、党あげての慰留の結果、それ以前よりも政治力を強化させたことを思い出したい。だが、今回ばかりはそういうわけにはいかない。代表辞任は政界引退に直結する可能性すらあるのだ。
したがって、小沢氏がいま、周到に計算しているのは、代表を辞任しても選対本部長などのポストで事実上の「院政」に持ち込める党内環境をいかにつくるか、という点にあるはずだ。
*代表辞任のタイミングを計る小沢一郎氏
民主党にしても、政権奪取がかかった総選挙を仕切るのは小沢氏の剛腕に頼る以外にないという思惑が、やはり残されている。「表」からは消えたように見えても、「裏」の存在としての小沢氏の力量にすがろうということか。だが、そうした体制をつくるには、ある程度の時間が必要で、世論の動向が左右する。
政治の流れというのは想像以上に早い。世間は一時的に天地がひっくり返ったような大騒ぎをするが、あっという間に忘れる。
中川昭一前財務相の「酔態会見」、「政府高官」のオフレコ発言などを考えてみるといい。世間では、指摘されてはじめて、そういうこともあったなといった反応が返ってくる程度で、もはや、ほとんど意識されていない。
小沢氏の一件は、党内の「反小沢」勢力の動きや、世論の「忘却の程度」が左右することになる。むろん、東京地検の捜査が新たな進展を見せるといった事態になれば別だが、小沢氏はたくましく、したたかに、今後の展開を計算しているはずだ。
小沢氏がそうした環境を見越したうえで、いよいよ代表辞任となった場合、後継代表は岡田克也氏がほぼ確定的といっていい。
菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長は執行部としての連帯責任を問われることになるため、今回、浮上することはあり得ない。付言するが、岡田氏は副代表というポストにあるものの、民主党の最高意思決定機関である常任幹事会のメンバーではない。連帯責任は免れる立場にあるといっていい。
民主党が「岡田体制」に一新して出直しムードが一気に高まるようなことになれば、麻生首相としてもうかつに解散に打っては出られない。その「読みあい」が5月解散説の帰趨を左右する。
麻生首相としては、60日規定をフルに使って、7月末まで補正予算の成立を遅らせることは可能だ。7月8日からのロンドン・サミット、12日の東京都議選をこなした後になる。公明党は都議選と近接した時点での総選挙を回避したい思惑が強いのだが、都議選終了後なら、渋々ながらも容認するだろう。都議選直前の総選挙よりはいい。
問題は、7月末までとなると、民主党が新体制に衣替えしている可能性が高まるという点だ。麻生首相にとってはここが最大のリスクとなる。5月中なら民主党内のごたごたも決着していないだろう、というのが現状の判断なのだが、さてどうなるか。
さらには「西松献金」事件の公判がいつ設定されるか、これも微妙な要素になる。総選挙と公判が同時期になれば、自民党としては歓迎だろうが、司法の側はおそらくそういうスケジュールは避けるはずだ。
「西松」事件のような政界スキャンダルは、往々にして政治の流れを大転換させる。年初には想定すらできなかった複雑極まる政局に突入したといっていい。
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