ブッシュ政権の対北朝鮮融和策が、ヘンリー・アルフレッド・キッシンジャー(Henry Alfred Kissinger, 1923年5月27日 – )の筋書きだとすれば、すべての脈絡がみえてくる。ニクソン大統領時代にキッシンジャーが推進した外交政策の特徴は、世界的なバランスオブパワーに配慮しつつ、米国の国益を最重視する超現実主義にある。
日本は佐藤内閣時代にニクソン外交で煮え湯を飲まされた経験がある。劇的な米中和解の秘密交渉が北京においてキッシンジャー・周恩来間で行われ、ニクソン訪中が決まったが、同盟国である日本に通告があったのは電撃訪中を発表する十五分前だったという。いわゆる日本の頭越しに行ったキッシンジャー外交として記憶に新しい。
米共和党の現実主義外交は、時には日本を置いてきぼりにして、劇的な展開を遂げることがある。こんどの米朝和解の動きも、その例であろう。しかも振り付け師が同じキッシンジャーだというから因縁がある。
それに比べれば、米民主党は理念外交の側面がある。ルーズベルトはファシズムとの戦いのために欧州戦線と太平洋戦線という二正面作戦をとった。ケネデイは共産主義と戦いを意識してベトナム戦争に介入している。現実主義よりも理想主義が勝るから、同盟国が置いてきぼりを食うケースが少ないともいえる。
イラク戦争をリードしたネオコンは新保守主義といわれるが、1970年代に米民主党のヘンリー・ジャクソン上院議員の政策スタッフとして誕生している。米民主主義を世界に広げることを国家目標とし、その目的を達成するために軍事力を使うことも厭わない「超理想主義者」の集団といわれた。
それが共和党のレーガン大統領時代に、ネオコンのジーン・カークパトリックを外交顧問に指名し、ソ連を「悪の帝国」と呼び、限定核戦争論を採用してスターウォーズ計画など推進している。しかし二期目のレーガン政権下では柔軟な現実外交路線に転換したためにネオコンは排除されている。
同じことがブッシュ政権でも起こったといえる。政権中枢にあったウォルフォウィッツ国防副長官、ファイス国防次官らが排除されたことを思うと、まさに歴史は繰り返されている。イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」を呼んだことは、レーガンがソ連を「悪の帝国」と呼んだことを想起させる。
米国が軍事超大国の地位を維持しているかぎりネオコンと称する「超理想主義」集団はなくならない。その多くは米東部のニューヨークに居住するユダヤ系の学者グループで、結束が固いといわれている。ウォルフォウィッツはユダヤ人差別が激しくなったポーランドから移民した数学者の子である。ネオコンは東欧のユダヤ系が多いといわれる。
キッシンジャーはネオコンではないが、両親はユダヤ人。ドイツ・ワイマール共和国で生まれたが、ヒトラーのユダヤ人迫害から逃れて、一家は1938年にアメリカに移住している。ドイツに残った親族は、ナチス・ドイツによって殺害された。
だからドイツのナチズムと日本の軍国主義に対する強烈な嫌悪感を持っている。そのアジア政策は中国重視路線であって、日本が軍事的な強国になることに根深い警戒感を隠さない。面と向かってではないが、日本人を「ジャップ」と呼んで憚らない。1972年に田中元首相が訪中し、日中国交正常化を図る計画を知った時には「ジャップ」と罵ったという逸話がある。ユダヤ系のキッシンジャーが超現実主義外交を主導し、同じユダヤ系のウォルフォウィッツがネオコンの信奉者というのも興味深い。
796 振り付け師キッシンジャー 古沢襄
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