3557 日向の国からミサイル 岩見隆夫

「相当な役者だな」と選挙を取り仕切る自民党の菅義偉選挙対策副委員長がつぶやいた。菅の上司である古賀誠選対委員長が衆院選に出馬するよう求めたのに対し、人気男、宮崎県の東国原英夫知事が投げた一球である。球威抜群だった。
戦時を思わせる。ミサイルは北朝鮮でなく、南国・日向から飛来した。落下した都心はうろたえ、右往左往である。麻生太郎首相は、
「衆院解散は遠くない」と言わなければならなかった。戦火をまぬがれ、核シェルターに避難したい底意がみえみえだった。
なにしろ、人気者とはいえ、九州の一知事が、出馬条件として、「私を次の自民党総裁候補として、衆院選を戦うご覚悟があるのか」と前代未聞の爆弾発言をしたのだ。麻生をオレに代えろ、と要求している。
爆風にさらされた自民党内から、とっさに、あほらしい、ジョークだろ、顔を洗ってこい、などの反応が出たのは無理もない。スポーツ紙がいっせいに、
<自民、なめられた>の大見出しを立てたのもわからないではない。だが、いずれもマトをはずれていた。
とりわけ見当違いだったのは、民放テレビのコメンテーターたちだ。図々(ずうずう)しい、ただの中央志向、国民をバカにしている、情けない、こっけい、高く売りつけている、などなど、否定的、感情的発言で占められていた。
東国原ショックの爆弾効果を評価するコメントがまるでない。テレビ政治の危うさを改めて印象づけることになった。
では、東国原発言の政治的意味合いは何か。もう一人の人気知事、大阪府の橋下徹の反応が参考になる。橋下は4日、中川秀直元幹事長らが開いた自民党の勉強会で、
「このままでは絶対に自民党、公明党は負けます。民主党に対抗するには、『ぎょへー』と思い、『そんなアホな』というくらい強烈な変革案を示さないと」
とハッパをかけたが、ぎょへー、というこの奇妙な擬音に対する答えが東国原発言だった。橋下は最初、
「しゃれとしか思えないが……」と首をかしげたが、すぐに軌道修正し、
「すごいですね。真っ向勝負してる。すごすぎる。一知事ではない」と興奮気味に語った。
これら賛否の反応に対し、東国原は、「至って真剣だ。ふざけたり、おちょくっていることはない。自民党が変わらないと、この国は変わらない」と述べた。
模擬爆弾でないことははっきりしている。東国原が国政の現状を憂えて体当たりしてきた。菅が言うようになかなかの役者であり、野心家でもあるだろう。だが、それは批判に当たらない。
自民党は54年に及ぶ党史のなかで、何度か、<解党的出直し>を叫んだが、一度として国民に実感できる改革に手を染めることなく、ついに政権を失いかけている。かつて、竹下政権の末期、改革派の実力者、伊東正義が再三後継首相を懇望されながら、
「表紙を替えただけでは仕方ない」と断り続けたのを思い起こす。伊東は立派だったかもしれないが、表紙は替えないより替えた方がよかった。
いま、<東国原首相>が実現するとは思えないが、もし実現すれば、自民党は変わった、と国民は実感する。そのレベルのことを断行しろ、と東国原は迫っているのではないか。(敬称略)
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