3597 千野境子さんが鳴らす警鐘 古沢襄

産経新聞の特別記者・千野境子さんは、生涯一記者をモットーにしている。外信部育ちでマニラ特派員、ニューヨーク支局長、シンガポール支局長を経て論説委員長も務めたが、肩書き不要で押し通してきた。論評も厳しいが、的を射て外さない。
麻生首相は八日からイタリアのラクイラで開かれるサミット・主要国首脳会議(G8)に出席するが、年々、サミットの役割は低下している。千野さんも「近年でもっとも盛り上がりを欠くG8になりはしないか」と厳しい。
大きく変容をみせている世界の趨勢にサミットが、ついて行けないことがはっきりしてきた。同様に国連の役割も低下する一方である。潘基文・国連事務総長の力不足も露呈している。ミャンマー訪問も軍事政権の頑な態度に阻まれて、為す術がなく帰国する様だ。
超大国・米国の衰退に伴って、北朝鮮、イスラエルのみならず世界各国が勝手気ままに動く不安定な時代に突入しようとしている。サミットに最初から参加している日本にとっても、これまでの発想にとらわれていたら、世界の潮流から取り残されることになりかねない。
千野さんは危機感をもって警鐘を鳴らしている。
<≪世界の変容と改革の要≫
イタリア北東部、大地震に見舞われたラクイラで8日から主要国首脳会議(G8)が始まる。
小国でのサミットは一般に低調になりがちとされるが、今回は問題アリの首脳が少なくなく、このままでは近年でもっとも盛り上がりを欠くG8になりはしないかと外野ながら心配してしまう。
ホスト役のベルルスコーニ首相はお騒がせ続きだし、ブラウン英首相も支持率が低迷、わが麻生太郎首相はご存じの通り。ロシアのメドべージェフ大統領もプーチン首相という大樹に遮られ、姿がよく見えない。
もっともG8の陰りは単に首脳の不人気のせいだけではないように思う。リーマン・ショック後の世界大不況の中で、新顔のG20首脳会議がG8に代わって存在感を示していることが何より象徴するように、世界の変容がサミットの存在を脅かしているのである。
そう考えれば、ラクイラは逆説的に言えば低調ゆえに、あるいは限界ゆえに、新たなサミットへの分岐点となり得る可能性を秘めているとも考えられる。
たまたま去る2日まで訪日した潘基文・国連事務総長を通して、私は国連にも同じような思いを抱いた。潘事務総長にはリーダーシップの不足がしばしば指摘されてきた。だがそれだけに悩める同氏の背中から、逆に国連システムのほころびが見える。その最たるものが安全保障理事会であることは言うまでもない。
≪進む政治と経済の乖離≫
月刊誌「世界経済評論」7月号で国際交流基金の小倉和夫理事長の語るサミット論が興味深い。
小倉氏はサミットの一つ大きな問題として政治と経済の乖離(かいり)を指摘する。「経済面ではますます世界的に相互依存関係ができ、バリアが少なくなり一つに市場化していくというときに、政治はそれに追いついていない」という。
実はこれは同誌主催のサミット・シンポジウムを誌上再録したもので、パネリストの1人だった私は小倉氏に、もし再びシェルパ(首脳の個人代表)をやるとしたら何をテーマに取り組むだろうかと尋ねた。ちなみに小倉氏は、96年仏リヨンと97年米デンバーでシェルパを務めた元外交官だ。
小倉氏は世界経済のウエートが変わり、G7やG8の議論では十分でなくなった(G20の登場)とするなら、次なる議題は専務理事が常にヨーロッパ人である国際通貨基金(IMF)や、世界銀行の代表は常にアメリカ人、そういう政治構造は果たしてよいのだろうかという問題も出てくるべきだとして、概(おおむ)ね次のように述べた。
「世界の構造が変わってきているのであれば、当然政治的な対話、政治的なシステムの中における今までの慣行も変更されていく方向に動くべきだという議論が本流だと思う。私は今こそ国連改革、あるいはIMF、世銀の改革が大きな問題だと思います」
内心、快哉(かいさい)を叫びたいくらいだった。ラクイラでは金融・経済危機や民主化と核開発のイラン、そして温暖化などが喫緊の課題となるだろう。それこそシェルパが入念に準備する。しかし欧州を中心としてG8拡大や再考論が散見されるいま、もしそれを俎上(そじょう)に載せるなら国連改革などとセットにしなければフェアではない。
とりわけ日本にはそうだ。なぜならサミットに最初から参加しながら、安保理常任理事国入りを阻まれている国こそ日本だからだ。「いまの国連は世界の現状を反映していない」とは、ここ何代かの事務総長が言い続けてきたことでもある。サミットと国連。問題の根っこは実は通底している。
≪サミットと日本外交≫
もう1人のパネリスト、東大の古城佳子教授が紹介したエピソードもとても含蓄に富んでいた。
北京大学の留学生が古城教授を訪れ、日本のサミット外交を研究したいので主要な文献を教えてほしいと相談され、はたと困ってしまう。古城教授が国際政治学でサミット研究はそんなに盛んでないことを伝えると、学生は不思議そうな顔をしてこう言った。
「私はサミット研究を日本でやれと大学の先生に言われた。日本がサミットのような機会をストラテジック(戦略的)に使っていないはずはない。だから日本の対サミット外交の研究があるはずと思ってきたのに…」(同誌から)
ここには中国の姿がよく見える。中国からは、日本がG8の一員として草創期から関(かか)わってきたことが極めて重要に見える。だからこそ中国は己の安保理常任理事国の座を重要と考え、日独などによる安保理改革のG4案を潰(つぶ)した。むべなるかなである。
翻って日本はG8をどれほど戦略的に使ってきただろう。いや、いまからでも遅くはない。(産経)>
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