「政治家の本棚」(早野透著・朝日新聞社・02年刊)は政治家の内面をのぞくのに役立つ好著だ。
朝日新聞編集委員の早野が、43人の政治家とのどかな読書談議を交わしているが、このうちすでに鯨岡兵輔、竹下登、上田耕一郎、藤波孝生、小渕恵三が故人になった。現党首では鳩山由紀夫、志位和夫、福島瑞穂、亀井静香、そして自民党の新総裁、谷垣禎一が登場する。
谷垣との対談は13年前の96年暮れのことで、その後記に早野はこう書いた。<知る人ぞ知る。まだ表舞台にたたないけれど、自民党の有望株である。
東大で山に登って結局8年も在学、ゆうゆうたる月日をすごしながら、東西文化の書物を読み漁(あさ)り、政界にまれなる教養の持ち主となる。半面、議員になったころは、竹下派の全盛時代、政治的に達者ではなく、金にも縁薄く、将来性があるともみえなかった。
だが、時代は反転、この明朗にして重厚の気風こそ、貴重なキャラクターである。大道廃れて仁義あり、この徳人が政治の中枢を担う時の来ることを期待したい>
他社の文章を引用させてもらって恐縮だが、谷垣の好意的な人物評として参考になる。この翌年、科学技術庁長官で初入閣した。
同書の中で、谷垣はこんなことを言っている。「孔子様が50にして『易』(中国・周代の占いの書)を読め、と言っているから、そろそろまた読まなくちゃいけないかな。(『易』という書物は)言葉に力がある。
『憧憧(しょうしょう)として往来すれば、朋爾(ともなんじ)の思いに従う』。心定まらないままにうろうろ動いたって、ついて来るのは結局、野次(やじ)馬みたいなものしかいないということですね」
父の後を継ぎ、弁護士から政界に転じて26年、いつも<温厚、堅実な教養派>と批評され、人ざわりよく柔和、確かにうろうろ動いていたイメージがある。その象徴的な場面が00年11月、<加藤の乱>での涙事件だった。
しかし、谷垣は今回の総裁選出馬で、捨て石になる、ドン・キホーテ(空想的理想主義者)になる、と宣言、およそ戦闘的でなかった京男(京都5区選出)もついに心定まったか、と思わせた。
だが、生来の人柄が急に変わるものでもない。自民党中堅議員の一人は、「総裁に選ばれ、NHKテレビに出演して、民主党政権への対応を問われた時、谷垣さん、『うーん、基本的には是々非々ですかねえ』と言ったんです。あれを聞いてガクッときた。これから倒そうとする相手でしょ」とぼやいた。涙でなく、まなじり決してケンカを挑めるのか、と党内は不安げだ。
下野の経験は一度あった。93年8月、自民党史上初めて、宮沢政権から細川非自民政権へ、野党に転落の場面だ。
この時、政権奪還の最前線となった国会、小里貞利国対委員長のもとで、谷垣は10人の副委員長の一人に名を連ねている。ほかに伊吹文明、町村信孝、川崎二郎らがいた。
国会内に<細川政権糾弾本部>の看板を掲げ、衆院予算委員会の筆頭理事に武闘派の深谷隆司、論戦では野中広務、中川秀直らが細川護熙首相の金銭疑惑を猛追撃した。10カ月余で奪還に成功する。
当時、自民党はまだ圧倒的第1党、人材もエネルギーも残っていた。いまは最悪の条件だ。鳩山一郎から麻生太郎まで23人の歴代総裁のだれよりも、谷垣は苦役を強いられる。かつて、<加藤の乱>で、加藤紘一を、「あんたが大将なんだから」 と説得した谷垣が、大将になった。貧しい手勢を従えて突っ走るしかない。(敬称略)
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