8777 アメリカが山本五十六をみる新たな視線 古森義久

70周年を迎えた日本軍のパールハーバー攻撃にアメリカはどう反応するのか。日本ビジネスプレスの私の連載「国際激流と日本」からの引用です。この部分は今年11月に出版されたアメリカ側の日米海戦史「太平洋の試練」の総括的な評です。 原文へのリンクは以下です。
 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/32006
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日露戦争後については、日本が米国との協調を熱心に求めたにもかかわらず、カリフォルニアでの激しい排日運動に遭い、日本の移民も政府も深く傷ついていく経緯を述べていた。この排日運動が日米戦争の遠因ともなったという示唆は、米国の史観では珍しいだろう。
満州事変以降の日本の動きについては、従来の米側歴史家に多い一方的な日本断罪の流れになっていた。満州事変も盧溝橋事件も、みな日本の侵略行動 として描かれている。だが、日本が米国との外交交渉で中国からの全面撤退を要求されたり、石油の禁輸措置を突きつけられるなど、選択肢を失っていく状況を 客観的に伝えている、と感じた。
戦史として新鮮な「人間」を見つめる視点
何よりも『太平洋の試練』の最大の特徴は、戦争の当事者たちの人間像を、日米のどちらかに偏ることなく均等な視線で追ったことだろう。
日米両国の政治指導者から提督、一兵卒まで膨大な資料を駆使して、その言動の人間的側面を分かりやすく伝えているのだ。この点ではこの書は米国側の太平洋戦争史では稀少なアプローチを感じさせた。つまり、戦争相手の日本側を同じ人間として描いているという感じなのだ。
中でも特にハイライトを当てたのは連合艦隊の山本五十六司令長官だった。同書は山本長官を「例外的な天然のカリスマを有し、国と部下を愛した豪胆な人物」と褒めていた。だがその一方、山本長官をミッドウェー海戦での決定的な敗北の責任者とも評する。彼がギャンブルや恋愛を楽しみながらも、米国との 戦争に反対し続けたことを英知として強調する。山本五十六の生涯がこの書の主題の1つだとも言えるくらいなのだ。
山本五十六長官についての本は、米国ですでに何冊も出版された。だがその人間像を戦史とからめて、ここまで書き込んだ書は初めてだろう。しかも敵将としてよりも、まず人間として紹介するという筆致なのだ。
戦時の米国での山本五十六観といえば、「パールハーバーへのだまし討ちの総責任者」として敵意に満ちたものだったという。その点からすれば、この書は今の米国民にとって「新しく甦る山本五十六」論だとも言えそうである。
著者のトール氏は2006年に米海軍の起源を書いた『6隻のフリゲート艦』という大作でデビューし、幾多の賞を得た海軍史の気鋭作家である。11歳からの3年間、両親とともに日本で暮らした体験があるという。
そこで本書の「人間的な視点」について本人に電話で連絡を取って、質問してみた。するとトール氏は「疑いなく、自分自身の日本での生活や、日本の人との親しい交流が主要因だと思います」と答えるのだった。
こうした日本への親近感が、70周年を迎えたパールハーバー攻撃を見る目にも反映されていった、ということなのだろう。〔完)
杜父魚文庫

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