3541 重なる金正雲氏と蒋経国氏 古沢襄

金正日総書記が秘密警察組職、国家安全保衛部の全権を金正雲氏に委譲したと韓国の東亜日報が報じている。一九六〇年代のことになるが、台湾に渡った私は蒋介石の長男・蒋経国氏と会ったことがある。日本人記者としては初めてのインタビューであった。
この蒋経国氏は青年時代に父・蒋介石と対立し、中国共産党に入党してソ連留学の経験があるなど謎の人物であった。一九五〇年代に総統府資料室主任(国家安全局の前身)になったが、この組織は中華民国の情報機関を統括していた。悪名高い”特務”(スパイ)の親玉ということから、表舞台には滅多に出てこないので、暗い人物という先入観があったが、意外と愛想のいい人物だった。
蒋介石はそろそろ息子に権力を委譲するつもりになっていたと思う。蒋経国は一九六六年に韓国、一九六七年に日本を相次いで訪問し、私は羽田空港で記者会見に出た。特務の親玉という暗いイメージを払拭するための”お披露目外遊”。台湾でも愛想が良かったが、羽田でも遠慮がない記者たちの質問にも、ニコニコしながら答えていた。一九七〇年には四度目の訪米を行なっている。
秘密警察組職・情報機関というのは、国内ににらみを効かせるポストだが、一度、その組織の親玉になると暗いイメージが生涯つきまとう。蒋経国を見ていて、その思いが強かったので、金正雲氏が同じポストについたのは、暗いイメージを引きずることになりかねない。
一国のリーダーたる者には、秘密警察組職とか情報機関の経歴はお荷物になる。ロシアのプーチン首相は悪名高きKGBの経歴があるのだが・・・。
<北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継者に指名された3男、正雲(ジョンウン)氏(26)が、北朝鮮で絶対的な権力を行使する秘密警察組職、国家安全保衛部の権力を金総書記から委譲されていたことが分かった。
21日、北朝鮮に精通する消息筋によると、金総書記は今年3月末頃、正雲氏とともに平壌市大聖(ピョニヤンシ・テソン)区域の峨眉(アミ)山の裾野にある保衛部庁舍を訪れた。この席で金総書記は、保衛部幹部に「今後、保衛部長として金正雲同志に仕え、仕事をすることを望む。過去、私にそうだったように、命をかけて金正雲同志を保衛せよ」と述べた。
金総書記は去る時、約8万ドル(約1億300万ウォン)相当の高級外車5台を贈ったという。さらに、金総書記は先月初め、保衛部の最精鋭要員を養成する平壌市万景台(マンギョンデ)区域にある保衛部大学にも、正雲氏とともに現われ、同様の話をしたという。
保衛部は、住民の思想動向を監視し反体制犯を捜し出し、海外工作などの任務を遂行する。各地方に支部があり、郡にも大尉クラスの要員が派遣され、組職を監視・統制する。保衛部長の席は87年以来22年間、空席だった。金総書記が最高責任者である部長を兼任したためだ。このため、保衛部の対外的な長は、副部長が務めてきた。現在、首席副部長はウ・ドンチュク国防委員会委員だ。
同筋は、金総書記が正雲氏を保衛部長に任命したというよりも、自分が持っていた保衛部長の権限を委譲したと見るのが妥当だと伝えた。また、最近、各機関の保衛部幹部らは、上部の指示を正雲氏の指示として、受け止めているムードだと伝えた。
最近、保衛部の位相が、急激に高まる兆しもあちこちで観察される。約10万人と推定される国境警備隊が、遅くても来月には、保衛部に所属が移管される予定だと消息筋は伝えた。国境警備隊は、92年まで保衛部所属だったが、その後人民武力部に移った。国境警備隊の将校らは、処遇がよくなることを期待し、保衛部への移管を喜んでいるという。また、軍に属していた国境通行検査所も、今年4月にすでに保衛部に所属が移っている。
消息筋は、3月に北朝鮮に抑留された米国人記者2人に対する取り調べや処罰も、正雲氏が事実上、総指揮して決断を下したと伝えた。
記者らが逮捕された当初は、一線の機関で静かに事件が終結する可能性もあった。中国人や外国人観光客が偶発的に国境を越える事件が多く、概して初歩的な取り調べで返すため、今回の事件もそのように処理される可能性が高かったということだ。
しかし、突然、全世界が同事件をスクープし、記者らが保衛部の「作戦」で拉致されたという報道まで出ると、下の幹部らが慌てて、記者を平壌に移送したと消息筋は伝えた。
平壌で記者が自ら拉致ではないという点を明らかにすることが、当初の目的だったということだ。しかし、その後、記者は対米交渉用カードに用途が変わった。
北朝鮮が、記者らに12年の労働教化刑を宣告後、異例にも逮捕から裁判までの経緯を詳しく説明したのも、拉致の疑いを晴らすための行為だと消息筋は分析する。記者を逮捕した国境警備隊員には最近、スパイ逮捕に準ずる勲章と労働党入党の表彰が与えられたという。
消息筋は、「現在、正雲氏が後継者という地位を得て、保衛部だけでなく労働党組職指導部の人事業務にも関与している」と伝えた。金総書記がそうだったように、今後、労働党総書記の次の地位である組職秘書に就き、党を掌握し、最高司令官の職責まで順に受け継ぐシナリオが始まったと、同筋は観測する。
そのような理由からか、最近、北朝鮮では、党員を対象に「過去、苦しかった時代に犯した過ちをすべて告白し、新たな出発をせよ」と、思想検討事業が盛んに行なわれていると消息筋は伝えた。
正雲氏が、金総書記の多くの権力のうち、真っ先に保衛部を委譲されたことは、世襲過程で起きる内部の反発を憂慮している傍証とみえる。正雲氏が今後、権力世襲に妨害になる勢力をどのような方法で取り除いていくのかに関心が集まっている理由だ。(東亜日報)>
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