469 アメリカ馬の腹を蹴る 古沢襄

少し理屈っぽくなるが日米同盟は煎じ詰めれば「バンドワゴン理論」に依拠している。超大国アメリカという”勝ち馬”に乗っていれば安全という同盟関係といえる。極めて現実的な選択で、自由を守るという主義・主張は後からつけた理屈に過ぎない。それが証拠には、日本人は自由を守るために血を流す覚悟があるのだろうか。
だからと言って日本人は非難されるいわれはない。敗戦という高い代償を支払って、主義・主張の虚構を嫌というほど知り尽くした。現実的に立ち回る方が安全という知恵を身につけている。何と非難されようと強かに生きる術を貫くしかない。
アメリカが衰退して力を失えば、他の勝ち馬に乗り換えるのは、日本としては、至極当然なことであろう。だが、先走って乗り換える馬を間違えては、それは国を滅ぼすことに繋がる。戦前の日本は、その過ちをおかした前科がある。日英同盟から日独伊三国同盟に乗り換えた結果、さんざんな目にあった。
ヨーロッパを席巻したナチス・ドイツの勃興に目を奪われただけでない。ローマ駐在武官だった平出英夫海軍大佐が帰国して、イタリアが世界最大の航空兵力を保有するに至ったという極秘情報を持ち帰っている。海軍部内は英米派と枢軸派に分かれていたが、平出報告によって枢軸派が力を得た歴史がある。
平出夫人は私の父方の祖母の妹、私にとっては大叔母に当たる。戦後、東京・奥沢で近くに住んでいたので、母と一緒によく遊びに行った。この話を想い出して調べたことがある。イタリアは一九二一年にドゥーエ(Giulio Douhet)が「航空論」を発表している。
日本海軍で山本五十六が航空決戦論を唱えるずっと以前に、イタリアでは航空戦力が戦争の帰趨を決めるという卓論が生まれ、第二次世界大戦の勃発時には世界で最大規模の航空兵力を持つに至った。しかしドゥーエ理論は足の遅い爆撃機万能に偏っていて、護衛する戦闘機を軽視する欠陥があった。
ナチス・ドイツはヘルマン・ゲーリングが「ユンカースJu 87」などを使った急降下爆撃を多用している。一時的には威力を示したが、中型爆撃機に急降下の能力を持たせるのは無理が伴う。独・伊の航空戦力は連合国側の前に敗退している。むしろ雷撃機による山本五十六の航空戦術が勝ったといえるが、いかんせんアメリカの巨大な航空機生産能力の敵ではなかった。結局は馬を乗り違えたことになる。
馬論には続きがある。日本の革新陣営がアメリカよりもソ連・中国との連携を重視してきたのは、その主義・主張からして当然のことだが、保守陣営でも脱アメリカ依存・親中国論が少数派だが連綿として残っている。
松村謙三氏に近い政治家だったが「将来は日中と米ソという対立構造に収斂される」と占っていた。半世紀も昔の話だが、今の日米同盟と中ロの関係の複雑な構造をみると、この占いは、まだ当たっていない。
ただ従軍慰安婦問題で中国各紙が比較的押さえた報道に転じた一方で、アメリカ各紙がますますジャパンパッシングの色を強めてきたのをみると、アメリカ馬の腹を思い切り蹴りたくなる。一寸の虫にも五分の魂がある。

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